仕事術や時間術にかんする本は世にあふれているが、本書『なまけもの時間術』(学研プラス)ほど、人を食った本はないだろう。「2ちゃんねる」の創設者として知られる、ひろゆき(西村博之)さんが、これからの時代をコスパよく、なんとか生き延びるには、「なまけもの」になれ、と説く異色の内容だ。
「管理社会を生き抜く無敵のセオリー」として23項目が書かれている。その前提となるのは、「時間をやりくりする」という発想を疑うことだ。優先順位のぶっちぎりトップは自分であり、好きなことを、好きなだけする毎日を送っているという。
パリに住み、月1のペースで日本に帰ってくるが、パリでの日常は、家でゲームをしたり、映画を観たり、マンガを読んだりする日々だという。耐えられないくらいにお腹がすいたら、パスタなどを料理する。
一方、日本では、打ち合わせや会食の予定が一杯入っている。「日中」「夜」「深夜」と3つの枠に分けて、ひとつずつこなしていく。「与えられた時間で、最大の価値をつくる」というのが、基本的なセオリーだ。だから、自分なりに誠意を持って時間を使っていると、結果的に遅刻してしまうことがあるそうだ。
ひろゆきさんは、1976年生まれ。中央大学在学中に、アメリカのアーカンソー州に留学。1999年、インターネットの匿名掲示板「2ちゃんねる」を創設、管理人となった。
「時間を『切り売り』するな」というセオリーの説明で、この時の体験にふれている。アメリカ留学中の春休みでヒマを持て余していたし、プログラミングの知識があったので、他人が作ったネット掲示板ではなく、自分で作ったもので遊びたいと思い、「2ちゃんねる」を作ったという。時間に追い立てられない生活をしていたので、トラブルにもすぐに対応出来、結果的に生き残った、と書いている。
「時給仕事は、質を高めたり早くこなしたりしても給料は上がらずコスパが悪い。自分の時間を切り売りしたくないのなら、そうではない働き方を目指すのがおすすめ」
23項目の中から、いくつか得心したものを列挙しよう。
・「明日できることは、今日やるな」 仕事は「締め切りギリギリ」がいい ・なるべく、頑張らない 「できない自分」を前提とする ・好きを仕事にしない、という選択 幸せな時間を確保するために、仕事を選ぶ ・「間違った努力」という時間のムダ 鍛錬すると目標は実現できるのか? ・迷うのは「人生の岐路」だけでいい件 「一番安いの」で、だいたいイケる ・人間はヒマだと不幸になる 起きている限り、僕は何かをしている ・イヤなことに時間を使わない ジワジワ系のストレスが一番厄介 ・人生で「お金」と「幸せ」は切り離して考える 月3万円で生きていける ・僕たちは、生きている限り「勝ち組」なんじゃないか なんとなく日々を過ごす幸せ
この中で、「好きを仕事にしない、という選択」が、一番心に留まった。なぜならば、BOOKウォッチでは、最近、「好きを仕事にしろ」と主張する本を多く取り上げてきたからだ。その代表格が、ホリエモンこと堀江貴文さんだ。
ひろゆきさんは、「好きを仕事に」は万能のスローガンではない、という。「好きなこと」と「仕事として向いていること」「仕事として成り立つこと」は両立しないこともあるからだ。そこから、幸せな時間を確保するために、仕事を選ぶという選択も成り立つ。夕方以降遊ぶために、建設会社を辞めて公務員になった友人の例を挙げている。
趣味を仕事にしてたくさん稼げる人もいれば、仕事と趣味を完全に切り分け、趣味に使える時間を確保する人もいる。また薄給だけど好きな仕事を「お金がもらえる趣味」と考えてダブルワークする人もいる。働き方に唯一無二の正解はない、というのだ。これには納得した。
本書の最後に出てくる見出しが「なんとなく日々を過ごす幸せ」だ。
「結局、住む場所と食べものがあって、人とのコミュニケーションがとれる状況であれば、人は幸せを感じることができるのです」
要は、時間に追われて頑張らなくても、考え方次第で人は幸せになれる、ということだが、時間だけは基本的に誰であれ公平に与えられたもの。自分が主体的に使えばいい、という本書の主張はビジネス的思考に慣れた人には受け入れがたいかもしれないが、一面の真理をついている。
ちなみに、ひろゆきさんは、2009年に「2ちゃんねる」を譲渡、2015年、英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に。2019年、SNSサービス「ペンギン村」を立ち上げた。BOOKウォッチでは、前著『凡人道』(宝島社)を紹介済みだ。
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