インターネットの匿名掲示板「2チャンネル」を創設したことで知られる、ひろゆき(西村博之)さんの新著『凡人道』(宝島社)が出た。意外なことに平々凡々な手堅い生き方を勧める内容だった。
はじめに」で先進国から転落し極東の小国になりつつある日本の未来予想図を、まんがを交えて指摘する。優秀な人材が日本を抜け出す、と書いているが、ひろゆきさん自身も現在はフランスに在住している。
経済だけではなくモラル的にも日本は微妙な国になるという。一方で、「そんなふうに社会全体が暗いほうへ向かっていっても、個人単位だったら満足のいく人生と幸せを手に入れる方法はいくらでもあるんです」と説く。平凡な人でも生き抜いていける最強のサバイバル術とは......。
第1章「AIに怯える前に僕らがすべきこと」では、職業選択の方法をアドバイスしている。「カンストの訪れが遅い仕事」を選ぶことを勧める。カウンターストップとは、仕事の熟練度とそれに伴う生産性を示す。つまりマスターするには時間や手間がかかって、そのマスター具合によって生産性がアップする仕事がいいというのだ。
一方、積み重ねが利かない仕事は給料が上がらない。またアニメーターやゲームクリエーター、プログラマーなど、やりたい人がたくさんいる仕事も搾取されやすい、と警告する。
「やりたいこと」と意気込むよりも、「やっていて苦じゃない」くらいを基準に仕事を探せばいいという。
「好きなことで生きていく」という考え方の本をBOOKウォッチでも何冊か紹介してきた。たとえば堀江貴文さんの『仕事も人生も娯楽でいい』(宝島社新書)などだ。だが、好きなことで成功するのはほんの一握りの恵まれた人だ。好きなことは趣味なり副業なり、本業とは違った形でやる方が幸せになれる、とひろゆきさんは考える。
このように極めて現実的なことが書かれている。第2章「インフルエンサーに搾取されるバカになるな」では、「学歴必要ない」の真偽を検討。大学は無名の大学でも卒業すれば「大卒」という、よくわからない下駄を履かせてもらえるという。メリットは中卒や高卒では受けられない採用試験を受けられたり、高卒よりも高い給料をもらえたりすることだ。また、大卒でないと就労ビザが取れない国もある。「日本離脱も大卒資格が最低限の装備となる」。
第4章では収入と幸福の関係を論じている。そして「年収400万円以降は収入が増えても幸せは増えない」と断言する。スマホやサブスクリプション方式の映像配信サービスの登場で、お金がなくてもお金持ち同様にさまざまに楽しめるようになったからだ。ひろゆきさん自身もネットフリックのヘビーユーザーで家に引きこもりがちだ。
自身の年収も3000万円と明かした上で、お金を使うのが嫌いなので、いくら稼ごうとも月の生活費5万円くらいの暮らしを崩したことがないという。それでも十分に幸せだ、とも。
一方、お金があまりにないと思考能力が落ちる上に、カモられる危険性も増えるので、ある程度の貯金は必要だと強調している。その他、興味深いところを抜粋すると、
「これからの時代に必要なスキルを子どもに培わせたいのならば、スマホやタブレットよりもパソコンを買い与えたほうがいい」(消費者思考ではなく生産者思考になるから)
「ベーシックインカム(BI)を導入すれば日本の未来を背負う才能も育てられる」(生活保護の財源を回し、月7万円程度のBIを導入すれば、さほど才能がない人でもクリエーターになれる)
そして、「おわりに」で、明るい未来予想図を描いている。BIの導入で、最低限の生活が保障され、結果的に社会は安定し、意外な才能が芽生え始まる。
各章ともに、まんがを導入部にしているので、わかりやすい。
「2チャンネル」の創設者ということで、構えて読んだが、常識的な内容だった。そして、「妥協しろってことじゃん」という予想される反応にも、人生は妥協だらけと諭している。
最後に、「映えない人生が不幸せとは限らない」「たとえ、日本の未来が詰んでいても、あなたの人生はまだまだ詰んでいない」とエールを送る。
ちなみに、ひろゆきさんは2009年に「2チャンネル」の譲渡を発表、現在は英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人を務めている。そういえばいろいろと訴訟を抱えていたはずだが、どうなっているのだろうか。
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