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「世界遺産」を一望できる「絶景ポイント」教えます!

世界遺産 百舌鳥・古市古墳群をあるく

 実にタイムリーな本だ。2019年7月6日にユネスコの世界文化遺産に登録され、一段と注目されている大阪の百舌鳥・古市古墳群。その直後の8月19日に本書『世界遺産 百舌鳥・古市古墳群をあるく』(創元社)が刊行された。さすが地元大阪の出版社だけある。

約90の古墳が残され49基が世界遺産に

 百舌鳥と書いて「もず」と読むことは、もはや大方の読者はご存じだろう。「全49基の古墳完全ガイド」と銘打っている。

 本書の内容をもとに簡単に説明しよう。この古墳群は、大阪府の堺市、藤井寺市、羽曳野市にまたがり、5世紀を中心に築かれたとされている。百舌鳥と古市の古墳群は10キロほど離れているが、当時の大王墓とみられる古墳が交互に築かれるなど、関係が深い。

 このエリアには現在約90の古墳が残され、そのうちの49基が世界遺産に登録された。大半が宮内庁の陵墓等に指定され非公開なので実態解明は進んでいない。世界遺産での登録名称は「仁徳天皇陵古墳」「応神天皇陵古墳」などとなっているが、本当のところは誰が葬られているのか分かっていない。したがって本書では「大山(だいせん)古墳」「誉田山(こんだやま)古墳」などという遺跡名を使っている。

 日本の巨大古墳のトップ3は「大山(墳丘長486m)」「誉田山(425m)」、そして「石津ヶ丘古墳(365m)」。いずれもこの地域にある。百舌鳥・古市古墳群が日本全国の古墳の中で、大きさでは突出していることが良く分かる。

 ちなみに全国には約16万の古墳があり、そのうち墳丘100m以上は約300。その半分が関西にあるという。

奈良から大阪に移る

 著者の久世仁士さんは1947年生まれ、泉大津市教育委員会参事、文化財係長などを歴任し、現在は文化財保存全国協議会常任委員、大阪府文化財愛護推進委員などを務める。近著に『古市古墳群をあるく――巨大古墳・全案内』(2015年)、『百舌鳥古墳群をあるく――巨大古墳・全案内』(14年)などがあり、この地域の古墳群についてはエキスパートだ。

 本書は写真や地図も多数収録。古墳ごとに分かりやすく解説されている。中には住宅と軒を接し、本当に古墳なのかと疑ってしまうような、一辺30メートルほどの小ぶりなものもある。

 巻末にはこの地域の「消滅古墳」のリストも掲載されている。百舌鳥で61基、古市では86基。これらを合わせると本来この地域には230以上の古墳があったというから驚く。まさしく「古墳銀座」だ。

 冒頭にも触れたように、いったい誰が埋葬されているのかはよく分からない。ただし、研究の進展で古墳が造られた年代の推定はできるようになっているという。

 それによると、巨大古墳は三世紀の中ごろから末にかけて今の奈良県の南東部に出現、それが奈良県北部に移り、その後、大阪の河内・和泉地区に移ったという流れだ。なぜ巨大古墳が奈良から大阪に移ったのかは研究者の間でも意見が分かれているという。

考古学は「歩け」オロジー

 関東と関西の大きな違いは、文化財のストックの差だといわれることがある。日本の国宝の約6割は関西にあるという。古代の日本が関西を軸に形成されたことは確かだ。

 『ヤマト王権誕生の礎となったムラ 唐古・鍵遺跡』(新泉社)によれば、奈良県中部には唐古・鍵遺跡がある。国内最大級の弥生集落、近畿中央部最大級のムラとして2世紀ごろまで長期にわたって栄えた。そこから約4キロ先には次の時代の盟主、纒向集落が生まれて古墳群の造成が始まる。

 奈良は盆地と思われているが、大和川を通じて大阪湾とつながる。奈良から百舌鳥・古市古墳群への移動はそう難しいことではなかっただろう。そしてこの地が衰退した後、再び王権は奈良盆地に戻り、飛鳥の時代がやってくる。

 その後、同じ奈良の中で平城京へ移り、さらに平安京へ――こうした王権の盛衰を関西にいると、電車で一時間前後のエリアの中でダイレクトに体感することができる。百舌鳥・古市古墳群に象徴されるように、それぞれの土地に明確な痕跡が残っているからだ。残念ながら関東では、こうした形で古代史の追体験はできない。「関西人」をうらやましく感じる瞬間だ。

 本書に百舌鳥・古市古墳群のいちばん簡単な味わい方が掲載されていたのでお知らせしておこう。

 堺市役所の高層館の21階に展望ルームがある。ここからは大山古墳をはじとするめ百舌鳥・古市古墳群の主要古墳が一望できるというのだ。最近、JR・南海三国ヶ丘駅の屋上に眺望施設(みくにん広場)もできて、ここも展望ポイントだという。関西に出かけた時に、もしちょっと時間があれば立ち寄ってみてはどうだろう。本書を手にして。なにしろ大阪の中心部から一時間以内で行ける。

 最後に著者は書いている。考古学は英語でアルケオロジーという。すなわち「歩け」オロジー。いちばん望ましいのは実際に現地を歩いてみることだ、と関西人らしいダジャレを飛ばしている。

 BOOKウォッチでは関連で『天皇陵古墳を歩く』(朝日選書)、『古代韓半島と倭国』 (中公叢書)、『考古学講義』(ちくま新書)なども紹介している。

  • 書名 世界遺産 百舌鳥・古市古墳群をあるく
  • サブタイトルビジュアルMAP全案内
  • 監修・編集・著者名久世仁士 著、創元社編集部 編
  • 出版社名創元社
  • 出版年月日2019年8月19日
  • 定価本体1200円+税
  • 判型・ページ数A5判変型・128ページ
  • ISBN9784422201634
 

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