古代の朝鮮半島と日本の関係は、多くの古代史ファンにとって大いに関心がある分野だ。これまでにもたくさんの本が出ている。本書『古代韓半島と倭国』 (中公叢書)もそうした中の一冊だ。
では、類書とどこが違うのかと言えば、著者の考古学者、山本孝文さんが比較的若いことだろう。1974年生まれ。しかも日韓両方で学び教えている。
山本さんは日大文理学部を卒業後、韓国の釜山大学校大学院博士課程を修了、博士号を取得した。高麗大学校で教え、2013年から日大文理学部で教授をしている。最近、日韓両方で学ぶ考古学や古代史の研究者が増えているそうだが、山本さんもその一人なのだ。教授になるのも早く、気鋭の学者のようだ。
本書では、「日韓交流史と考古学」「百済と新羅の考古学」などが広範囲に論じられている。比較的新しいところで、読者の興味をそそるのは「前方後円墳」に関する部分だろう。
戦前の日韓併合時代から、多少は言及されていたようだが、本格的に論じられるようになったのは1980年代から。一時はかなりの前方後円墳が韓国側にあると言われたが、その後の調査で多くが否定された。現在確認されているのは十数基という。
よく知られているように、前方後円墳は日本列島特有の形式。それが韓国側にもあるのはどういうことか。一つの見方では、韓国側から日本に伝わったということがあり得るし、もう一つは、逆に日本から流入したとも考えられる。近年の研究を踏まえ著者は、韓国側の前方後円墳の出現が、日本列島よりも遅れていることは明らか、日本列島内部では弥生墳丘から前方後円墳への連続性が確認できる、したがって日本の前方後円墳の起源を外部に求める必要はないとする。
次に問題になるのは、韓国側の前方後円墳に埋葬されているのは誰かということ。在地の首長説もあれば、海を渡った倭人説もある。著者は「最難題」としており、考古資料に基づいた忠実な検討が必要、と冷静だ。
韓国側で見つかっている前方後円墳は、日本のものと比べると、中小型。しかし韓国側の他の古墳と比べるときわめて大きい。韓国側の古墳の石室の壁は白く塗られていることが多いが、韓国で見つかった前方後円墳の石室はたいがい、日本のものと同じく朱に塗られている。しかし、対馬にはない前方後円墳が、なぜ韓国側に出現するのかという謎もある。
従来の交流史研究では、高句麗、新羅、百済と倭国との関係が注視されがちだが、本書では百済の南側に当たる「栄山江流域」について特にスポットを当てている。前方後円墳が多いのも、この地域だ。古代の日本と最も関係が深い地域として、今後の研究が待たれるということがよく分かった。
また、日本列島への渡来文化と、日本側から韓国に渡った倭系文物の違いも勉強になった。前者は仏教や漢字や鉄生産、カマド付きの住宅など体系的・恒常的に流入して根付いた。後者は断片的・散発的で定着しなかった。例えば、倭系の墓制は限定された一時期に現れ消えたようだ。
本書は、書名を「朝鮮半島」ではなく、韓国の通例に従い「韓半島」としている。叙述の対象が現在の韓国のエリアで、韓国考古学の成果を活用していることなどによる。巻末には詳細な索引も掲載されている。中公叢書ということもあり、最新の研究を日韓の複眼でバランスよく知ることができる一冊と言えるだろう。
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