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江戸時代は「飛脚」が感染症を運んだ!

日本人の病気と食の歴史

 日本人の平均寿命が戦後になって急速に伸び、世界一の長寿国といわれるようになった。本書『日本人の病気と食の歴史』 (ベスト新書)はその理由を、縄文時代にまでさかのぼりつつ探ったものだ。日本人はどんな食生活をしてきたのか。それが現在の長寿とどう結びついているのか。帯には「『和食道』1万年の旅」というキャッチ。「忘れてはならない『養生の知恵』」を改めて解説している。

感染症に苦しんだ

 著者の奥田昌子さんは内科医、著述家。京都大学大学院医学研究科修了。京都大学博士(医学)。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関で20万人以上の診察にあたる。著書に『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』(講談社ブルーバックス)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎新書)、『実はこんなに間違っていた! 日本人の健康法』(大和書房)、『「日本人の体質」研究でわかった 長寿の習慣』(青春新書インテリジェンス)などがある。

 BOOKウォッチではすでに日本人と病の歴史について、『病が語る日本史』 (講談社学術文庫)、『感染症の近代史』(山川出版社)、『天変地異はどう語られてきたか――中国・日本・朝鮮・東南アジア 』(東方選書)などで取り上げてきた。本書でも、日本人が感染症(疫病、伝染病)にさんざん苦しめられた話が出てくる。全体は以下の構成になっている。

 第1章 医術もまじないも「科学」だった~縄文時代から平安時代まで
 第2章 食べて健康になる思想の広がり~鎌倉時代から安土桃山時代まで1
 第3章 天下取りの鍵は健康長寿~鎌倉時代から安土桃山時代まで2
 第4章 太平の世に食養生が花開く~江戸時代
 第5章 和食を科学する時代が始まった~明治時代、大正時代
 第6章 和食の〝改善〟が新しい病気をもたらした~昭和時代から現代まで

「谷風」と呼ばれたインフルエンザ

 太古の人々の体の中にはたいてい寄生虫がいた。さらに「マラリア、麻疹、天然痘、インフルエンザ、結核、赤痢などの感染症が繰り返し流行し、一度に数万人、数十万人が亡くなる惨事が起きていた」。

 疫病に関連して古墳時代には内乱、政争も起きた。701年に完成した大宝律令には、医疾令という制度が盛り込まれ、早くも国家として医師の養成が始まっている。内科、外科、小児科、耳鼻科、眼科が当時すでにあったという。加えて鍼灸と按摩、呪術もあり、朝廷の役人を治療する医師10人のうち2人は呪術の専門家だったそうだ。仏教を伝えた鑑真が医者でもあり、当時の僧はたいがい、漢方の知識があり、「僧医」でもあったという話は、『病が語る日本史』 (講談社学術文庫)に詳しく出てくる。

 江戸時代はたびたび感染症が大流行した。本書では「飛脚が運んだはやり風邪」を紹介している。「はやり風邪」(インフルエンザ)が古文書に初めて出てくるのは862年。「咳逆(しわぶき)」と記録されているそうだ。本書によれば、江戸時代の中期から幕末にかけての170年間で江戸では25回の流行が起きた。1716年の流行では1か月で8万人以上が死んだという。鎖国をしていても、輸入品は出回っており、品物に付着したウイルスが国内にばらまかれたと奥田さんは見ている。したがって「飛脚が運んだ」といわれたわけだ。

 当時のインフルエンザには、流行ごとに呼び名がつけられた。中には「谷風(タニカゼ)」というのもあった。無類の強さを誇った横綱・谷風。「俺が倒れているのを見たかったら、はやり風邪にかかって寝ているときに来い」と本人が言っていたことによるそうだ。後年、本人が本当にインフルエンザに罹って亡くなった。

大豆は「畑の肉」

 こうした疫病の類は、当時の医学では対処できなかった。しかしその要素を除くと、日本列島に住む人々は、古くからかなりの長寿だったようだ。例えば縄文時代。平均寿命は30~35歳といわれているが、生まれてまもなく死ぬ子どもが多かったため、全体としての平均寿命が低くなっている。最近の研究では、縄文人の3割は65歳を超えるまで生きていたと報告されているそうだ。

 本書はそうした大方の日本人の長寿を支えてきた食生活について、詳しく解説している。長寿の大きな理由として、鎌倉時代以降、表向きには肉食が禁止され、大豆の栽培が盛んになったことをあげている。大豆は「畑の肉」といわれる。大豆を発酵させる味噌には、質の良い植物性たんぱく質に加えて、アミノ酸、ビタミン、カリウム、マグネシウムが豊富に含まれている。戦国時代の武将たちが戦に必ず味噌を持参していた。また、大豆は加工すると弾力が出て食べ応えがあるため、豆腐、おから、ゆば、揚げなどの食品を生み、調理技術も向上、和食や日本人の健康維持に大きな影響を与えたと解説している。

 そのほか多数の事例を参照しながら、「国家規模で世界有数の長寿国になったのは、健康になるために何を食べ、何をすべきか、古代から追究してきた無数の人々の努力と情熱のたまもの」と結論づけている。

 現代は「生活習慣病」がクローズアップされている。食生活の偏りなどが影響している。そうした中で改めて「和食」が見直されているのも、理由があるというわけだ。

 BOOKウォッチでは関連して、男女の寿命の違いについて書いた『女は筋肉 男は脂肪』 (集英社新書)、寿命とがん研究の最新情報を報告した『がんを疑われたら最初に読む本 ――プライマリ・ケア医の立場から』(クロスメディア・パブリッシング)、伝統食にこだわる京都の和食名店主による『おいしいとはどういうことか』 (幻冬舎新書)なども紹介している。

   
  • 書名 日本人の病気と食の歴史
  • サブタイトル長寿大国が歩んだ苦難の道
  • 監修・編集・著者名奥田昌子 著
  • 出版社名KKベストセラーズ
  • 出版年月日2019年10月30日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・280ページ
  • ISBN9784584125885

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