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自己肯定感を高める「わがまま」の練習

ふりまわされない自分をつくる「わがまま」の練習

 次のうち、あなたは一つでも当てはまるだろうか?

 ついつい人にふりまわされる、理不尽なことをされても「NO」と言えない、「いつかだれかが幸せにしてくれる」と願っている、仕事とプライベートがごっちゃになるほど働いている、「別れるなら死んでやる」とおどされている(おどしている)、だれかがイライラしているとつられてイライラする、子どもの将来を思うと不安になる、人の携帯を無断でチェックする、家族のものを勝手に捨てる、必要以上に人の世話を焼く、自分で決断できない――。

 キャリア30年で相談件数4万件の心理カウンセラー・谷地森久美子(やちもり くみこ)さんの本書『ふりまわされない自分をつくる「わがまま」の練習――心の中に線を引けば全部うまくいく』(株式会社KADOKAWA)は、上記に当てはまるという人に向けてこう書いている。

「あなたには、『わがまま』になる練習が必要です。」

「わがまま」とは「ありのまま」

 谷地森久美子さんは、公認心理士・臨床心理士。東京学芸大学大学院教育心理学講座修了。精神医療・学校臨床・産業(EAP)、各分野で10年以上の臨床経験を積み、2009年都内に心理オフィスを構える。日本経済新聞コラム「こころのサプリメント」初代執筆者。現在、公立学校スクールカウンセラー、明治大学学生相談室相談員、神奈川県教育委員会スクールカウンセラー・アドバイザー(横須賀市担当)を兼務している。

 それにしても、「わがまま」という言葉にはマイナスのイメージがあり、その「練習」とは一体どういうことなのか? 著者は、次のように定義した上で「『わがまま』の練習」を勧めている。

 「『わがまま』――それは人をふりまわす身勝手なワガママではなく、他人に影響されずに、ありのままでいること。私たちがみな、本当の自分――『わがまま』で強い自分になれたら、生きづらさを感じなくなるのではないでしょうか。」

高校生の7割以上「自分はダメな人間」

 まず、「はじめに」で「高校生の生活と意識に関する調査」(国立青少年教育振興機構、2015年)の結果を紹介している。これは、日本、米国、中国、韓国の高校生を対象に「自分はダメな人間だと思うことがあるか?」とたずねたもの。4か国中、日本がトップ。日本の高校生の実に7割以上が「自分はダメな人間だと思ったことがある」と答えたという。

 この結果の背景には、親世代、つまり大人の自己肯定感の低さが関係しているのではないかと著者は見ている。「自分に自信がもてないせいで、いつも人にふりまわされる。それが原因で、生きづらさや自己否定におちいってしまう」人が多いという。

 人の幸せは、お金や名誉や社会的な地位のみで得られるものではなく、「『わがまま』な自分――ありのままの本当の自分として生きること」「その自分を許すこと」で得られるものと著者は考えている。

「心の境界線」を引く

 では、一体どうしたら「わがまま」になれるのか? その一つが、近年心理学で重要視されている概念「心の境界線」という。境界線は「自分と他人を分ける輪郭」のようなもの。境界線を上手に引いて「わがまま」な自分になることで、次の3つの状態になれるという。

1 混乱していた人間関係が整理され、人にふりまわされなくなる。
2 落ち着いて自分の本当の気持ちを見つめられ、何が大切なのかがはっきりわかる。
3 自信がつき、能力を最大限に発揮できるようになる。

 つまり、「わがまま」な自分になるとは、ありのままの自分を肯定する(好きになる)こと。その結果、自分だけでなく、子どもたちを幸せにすることにつながるという。

相談者に自身を重ねて読める

 本書は境界線をはじめ、コフート、アドラー、ユング心理学を、漫画の一コマを思わせるイラストをまじえてやさしく解説。手にとりやすいポップな表紙だが、キャリア30年の心の専門家による解説は説得力があり、表紙の印象にくらべ中身がずっしりしている。

第1章 境界線を引いて、「わがまま」に生きる
(迷惑をかけるなら、死んだほうがまし? ブラック企業に殺されないヒント ほか)
第2章 「わがまま」になって自分を取りもどす
(なぜ女性は、白馬の王子様を夢見るのか ほか)
第3章 「わがまま」じゃないから他人の境界線を侵害してしまう
(パートナーの携帯チェック。「夜中にこっそり」がやめられません ほか)
第4章 「偽りの自分」が生まれた理由。生きづらい大人が幸せになる「3つの鍵」とは?
(「わがまま」な自分で生きるか、「偽りの自分」で生きるか ほか)
第5章 本気で自分を生きるには
(35歳からの逆境ののりこえ方 ほか)

 本書は、著者のカウンセリングを受けた相談者をA・B・C......として、彼らの相談事例をもとに解説し、「『わがまま』の練習」「コラム」と続く構成になっている。人生の重要な局面に立たされた相談者が、著者とどんな対話をし、どんな「『わがまま』の練習」を経て、自己肯定感を高めていったのか――。個々の相談事例が具体的に書かれており、読者は自分と同じような境遇の相談者に自身を重ねて読むことができる。

 評者が特に自分事として読んだのは、だれもが体験するという「中年の危機」に光をあてた第5章。ユング心理学をもとに、中年期の重要性と意義、中年の危機の活かし方を取り上げている。

 ユングは人の一生を太陽の1日の運行にたとえて、中年期を「人生の午後」と呼んだ。それは決して下降するイメージではなく、「自分の内面を充実させる時間=無意識を探究していく重要な時期」ととらえた。「若い時代には、見えなかった世界、見てこなかった世界に気づきを向けていく重要性」を説いた。

 著者によると、この中年期の意義が「わがまま」な自分づくりの核になる視点という。つまり、大人世代に必要なのは「内面の深まりを意図すること」。加えて、業績の達成や勝ち進むこと以上に「豊かさを秘めた心の変容」が自己実現につながると、ユングは示しているという。著者は、一見否定的に見える「中年の危機」でさえ「わがまま」な自分づくりの糧となるとしている。

 心理学特有の表現なのか、正直、一度読んだだけでは頭にすんなり入ってこない箇所もあったが、本文を読み、「『わがまま』の練習」「コラム」で補足することで、だんだんと理解を深めることができた。なにより相談事例がリアルで、グッと自分の身に引き寄せて読むことができる。

 本書の「『心の苦しさ』を解消し、強く生きるための方法」は、あなたの自己肯定感を高めるヒントになるだろう。

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