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禅僧が伝える「こじらせない、99のヒント」

上手な心の守り方

 例年9月1日前後に子どもの自殺が増えるとして、メディアは注意を呼びかけていた。新学期が始まり、子の様子を親はしっかり見守っていきたいところ。しかしそれは、親の心が安定していないとむずかしいことでもある。

 個人的な話になるが、新学期から始まるPTA活動に不安を感じていた評者は、枡野俊明さんの『上手な心の守り方』(三笠書房、知的生きかた文庫)を手にとった。

 「『現実』を変えるのではなく、『受け止め方』を変える――そのちょっとしたコツがある」と帯にある。「そのちょっとしたコツ」をぜひとも身につけたいと思ったのだ。

著者は住職、庭園デザイナー

 まず、著者の枡野俊明(ますの・しゅんみょう)さんについて紹介したい。

 1953年神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学環境デザイン学科教授。玉川大学農学部卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行ない、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。2006年「ニューズウィーク」誌日本版で「世界が尊敬する日本人100人」に選出された。

 近年は執筆、講演活動も積極的に行っている。『心配事の9割は起こらない』『おだやかに、シンプルに生きる』など、書店でお名前をよく見かけるので以前から気になっていた。

 住職と庭園デザイナーという組み合わせに意外性を感じたが、枡野さんのホームページによると「そもそも禅では、『心の状態』という目に見えないものを象徴化し何かの形に置き換えて自己を表現しようとする」という。

「庭は私の分身、私の心を写す鏡。私が卑しいことを考えていれば卑しい庭しかできず、未熟であれば未熟な庭しかできない。......先達の造った庭を眺める時も、今の力量分しか見ることができない。......私にとって『庭』は造ることも、眺めることも修行であり、またその道場なのである」

 ホームページでは、枡野さんの「庭」への想いが綴られている。また、国内外の庭園作品も見ることができる。

心を守るただ一つの方法とは

 本書は以下の5章から成り、「不安、悩み、怒りをこじらせない、99のヒント」を伝えている。1つのヒントにつき2ページ(右ページにヒント、左ページに文章)の構成でさらさら読める。

1章 まず、自分を嫌わない――「心を守る」ための絶対ルール
2章 絶対、無理をしない――「自分を大切にする」とはこういうこと
3章 すぐに、人と競わない――「自分の物差し」でしっかり生きる
4章 ささいなことで、怒らない――心をすり減らさないためのコツ
5章 いつまでも、クヨクヨしない――落ち込んでもいい、でも早く立ち直ろう

 「はじめに」で枡野さんは、心を守るただ一つの方法として「心を『強く』するのではなく、『柔軟に』すること」と書いている。禅ではそうした心のありようを「柔軟心(にゆうなんしん)」(決まった形のない心のこと)というそうだ。

「雲は、南から風が吹けば北に、東風なら西に流れます。形も変幻自在に変わります。それでいて雲としての本質は同じ。そんな"雲の生き方"に倣って、人間も『柔軟心』を持って生きればいいのです」

 そうして流れに任せつつ、現実をしっかりと見極めることが必要という。

「風がどちらの方向に吹いているのか――その現実を、決して逃げずにしっかり見極めて、そのうえで、身を委ねるのです」

 99のヒントは、すべてが真新しい視点というわけではないが、禅僧である著者の言葉は読んでいて安心感があり、心が清められていく。これまでと別の視点で現実を受け止めたいと思っている方に、ぜひ読んでいただきたい。

  • 書名 上手な心の守り方
  • 監修・編集・著者名枡野 俊明 著
  • 出版社名株式会社三笠書房
  • 出版年月日2019年4月10日
  • 定価本体680円+税
  • 判型・ページ数文庫判・221ページ
  • ISBN9784837985877
 

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