百貨店業界が新型コロナウイルスの直撃を受けている。頼りの訪日外国人客が激減し、緊急事態宣言による外出規制が追い打ちをかける。食料品以外のフロアは閉めざるをえない。そんなタイミングで本書『百貨店・デパート興亡史』(イースト新書)が発売された。「江戸時代から続く"小売の王様"は、その使命を終えたのか?」という帯が付いている。
著者の梅咲恵司さんは1971年生まれ。同志社大学商学部卒業後、地方銀行勤務を経て、現在は、「週刊東洋経済」副編集長、兼報道部消費・生活チームのリーダー。『週刊東洋経済 名古屋臨時増刊2016・飛翔する名古屋』や『週刊東洋経済 名古屋臨時増刊2017・名古屋の逆襲』編集長も務めた。
「江戸時代の呉服屋に起源を持ち、およそ四〇〇年の歴史を誇る百貨店。近代小売業の先駆、業界のトップとして、日本の消費文化を創ってきた。しかし、いまや経営は厳しさを増す一方で、その存在が揺らいできている。三越、伊勢丹、高島屋、松坂屋、大丸、西武、東急、阪急......。かつて隆盛を極めた百貨店は、商品販売で、宣伝戦略で、豪華施設で、文化催事で、いかにして日本社会を牽引してきたのか。『モノが売れない』時代となり、デジタル化が進む現代において、何を武器に活路を拓くのか」――その歴史と展望に「週刊東洋経済」副編集長が迫る、というのが本書の概要だ。
確かにコロナ以前から百貨店業界は大揺れだ。地方の主要都市で「百貨店閉店」のニュースが報じられている。以下、最近の朝日新聞の見出しを拾ってみた。
「県庁所在地で初、百貨店が消える 山形の老舗大沼が破産」(20年1月27日)
「そごう徳島店、20年8月末に閉店 驚き広がる」(19年10月11日)
「西武大津店が20年8月閉店 売上高ピークの3割」(19年10月11日)
これらはいずれも県庁所在地の動きだ。「消えゆく百貨店、生き残りに苦闘 『地域にゼロ』の県も」(19年11月18日)という記事もあった。最近では、「松坂屋豊田店」や「三越恵比寿店」などさらなる閉店の動きも各紙で伝えられている。
本書は、「序章『イノベーター』として君臨した百貨店」から始まり、以下の構成。
第一章 商い――「モノ」が売れない時代に何を売るか
第二章 流行創出――文化の発信地にまだブランド力はあるか
第三章 サービス――「おもてなし」は武器であり続けるか
終章 かつての「小売の王様」はどこへ向かうのか
全体として百貨店の歴史を振り返りつつ、近未来を予想する構成だ。近年の象徴的な出来事として、「不振にあえぐ『西武』と『そごう』の合併」、「関西の両雄、『阪急』と『阪神』まさかの経営統合」、「老舗中の老舗、『大丸』による『松坂屋』の救済合併」、「百貨店の牽引役、『三越』と『伊勢丹』の大型統合」などを取り上げ、「大再編後も続く深刻な販売不振と『地方百貨店』の崩壊」について論じている。
結局のところ、なぜ百貨店・デパートは駄目になったのか。業界再編の動きが本格化したのは2000年代に入ってから。そごうと西武は01年に包括的な業務提携を結び、03年に経営統合したが、思わしくなく、06年にはセブン-イレブンやイトーヨーカドーを展開するセブン&アイ・ホールディングスの傘下に入った。
日本百貨店協会の統計によると、2018年の全国百貨店の売上高は5兆8870億円。これはピークだった1991年の約6割にとどまっている。百貨店の数も1999年の311店から2019年の5月時点では202店に激減している。
不振の理由は、主力商品だった衣料品が売れなくなったことが大きいという。単価が高く採算性が良かった衣料品が売れないために百貨店の収益も悪化したというのだ。背景にはバブル崩壊後の日本経済全体の沈滞があり、消費税の導入、利率アップもあって、中間層の財布のひもが固くなったことが影響しているという。今や百貨店の中に「ユニクロ」が入っている時代だ。そごうと西武がセブン&アイ・ホールディングスにのみ込まれたことは、状況を象徴しているといえる。加えて、ネットショッピングの普及も大きい。海外、特にアメリカの百貨店はその影響をもろに受けた。
このところ、苦境の百貨店業界の救世主ともなっていたのが、訪日外国人客だ。2011年には8135億円にすぎなかった訪日外国人の消費額は2018年には4兆5189億円。高級品の売れ行きも加速し、東京・銀座の松屋銀座や銀座三越では免税売上高が20%台に達していた。
その姿がパタッと消えたのが2月以降の百貨店だ。3月の途中からは、日本人の客足も鈍り、4月に入ると、緊急事態宣言で事実上の休業を強いられている。本書はコロナ騒動の前に原稿が出来上がっているので、そのあたりの論及はないが、たいへんな状況になっていることだろう。この数日でも、関連の芳しくないニュースが矢継ぎ早に報じられている。「オンワード 不採算店舗700店閉鎖へ」(NHK、4月13日)、「三陽商会 4期連続最終赤字 最大150店舗を閉鎖へ」(NHK、4月14日)など、アパレル大手が実店舗を大幅に縮小するとのニュースが流れている。百貨店内の店舗でも、クローズされるところが出てくるだろう。「三越伊勢丹、融資枠要請 大手2行に800億円 新型コロナ対応」(時事通信、4月15日)などという厳しい情報も。
観光庁が4月15日に発表した3月の訪日外国人旅行者数(推計値)は、前年同月比93%減で過去最大の減少だ。コロナが沈静化しても、頼りの中国人観光客は当分戻ってこないだろうし、日本人も高額商品を買うような心理状態になるには、時間がかかると思われる。
本書では、百貨店再生への処方箋もいくつか掲載されている。「不動産ビジネス」として活路を拓く、という提言もある。
その象徴として、「ギンザ シックス」をあげている。百貨店側が不動産会社や商社と一体になって立ち上げた施設だ。高級感を打ち出し、外国人向け比率が約3割。こちらも今回は、相当なダメージを受けていると思われるが、オフィス用の賃貸フロアもかなりあるので、百貨店単体よりは軽減されているかもしれない。
BOOKウォッチではアパレルと百貨店の関係を『アパレル興亡』(岩波書店)で紹介。このほか関連で『百貨店の展覧会』(筑摩書房)、『日本一の「デパ地下」を作った男』(集英社インターナショナル)、『大量廃棄社会――アパレルとコンビニの不都合な真実』(光文社新書)、『コンビニチェーン進化史』(イースト新書)、『おしゃれ嫌い――私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』(幻冬舎新書)、『誰がアパレルを殺すのか』(日経BP社)、『デス・バイ・アマゾン』(日本経済新聞出版社)、『平成時代』(岩波新書)などを紹介済みだ。
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