コロナ禍のいま、出版がもう少し早ければと悔やまれる本が散見される。本書『バーテンダーの流儀』(集英社新書)もそんな一冊だ。3密を避けるために、営業の自粛が求められたバーなどの飲食店。マスターが一人で営む正統派のバーは「接待を伴う」という決まり文句が当てはまらないので、セーフだと思うのだが、客足は鈍っているようだ。しかるべき時期に行ってみたいバーとバーテンダーを取り上げた本だ。
著者の城アラキさんは、ヒット作『バーテンダー』『ソムリエ』をはじめ、酒と酒にまつわる人間関係を描き続けてきた漫画原作者。『バーテンダー』は16年連載され、今年(2020年)完結した。見習いバーテンダーに「漫画の『バーテンダー』を読んでバーテンダーになりました」と、こっそり打ち明けられたこともあるという。
・ホテルのバーに「扉」がない理由は何か? ・「最初の一杯」は何を頼むのがベストか? ・なぜバーで酔っ払ってはいけないのか? ・なぜバーで「あちらの女性に一杯」が迷惑なのか?
初心者から通まで、誰もがバーを楽しめるコツやエピソードを披露している。
酒は好きだが、あまり行儀がいい客とは言えない評者には耳が痛い卓見があちこちに書いてあり、酔いが醒める思いがした。バーで酔っ払う客だから、どうしようもない。
気の利いた警句のような文章がいくつもある。
「人はバーテンダーという仕事に就くのではない。 バーテンダーという生き方を選ぶのだ」
どうです。かっこいいでしょう。
そんな凛としたバーテンダーに出会ったことがある。よく冷やしたグラスとウイスキー、そこに炭酸を注ぐというハイボールのスタイルを生んだのが、かつて神戸市にあった「コウベハイボール」だ。ハイボール発祥の店で、ここから全国に広まったという。1980年代、評者の職場がこの店の上階にあったため、毎晩のように先輩と連れ立って店に通った。
飲むのは当然、ハイボールのみ。つまみはあまり記憶にない。ナッツなど乾き物くらいしかなかったような気がする。マスターはほとんど客と話さなかった。黙々とシェイクし、グラスに酒を注いだ。
この店は切り絵作家の成田一徹さんがバーの切り絵作家になるきっかけを作った店でもある。成田さんは急逝したが、その新刊『NARITA ITTETSU to the BAR』(Office Ittetsu監修、『to the BAR』編纂委員会編纂、神戸新聞総合出版センター刊、2014年)が出たことを本書で知った。本書の帯に成田さんの切り絵が使われている。
成田さんの原画の保管管理は畏友でもあった大阪の「Bar UK」の荒川英二さんが行っている。大阪市北区曽根崎新地にある店では成田さんの切り絵原画を展示している。
荒川さんはグリコ森永事件の頃、兵庫県警を回っていた元朝日新聞記者だ。独特の取材方法で事件にリアルタイムで迫った敏腕記者だった。退職後、堂島川に面したビルの地下に店を構えた。新聞記者からバーテンダーに。まさに「バーテンダーという生き方を選んだ」人だと思う。もちろん、「コウベハイボール」がお手本であることは言うまでもない。
巻末には「Bar UK」をはじめ、城さんが厳選した全国のBARリスト100が収められている。本書でマナーを予習してから行くといいだろう。
BOOKウォッチでは、サントリー宣伝部勤務を経て作家になった吉村喜彦さんの『バー堂島』(ハルキ文庫)などを紹介済みだ。
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