名前を失い、「死人」となった元警官が、捜査の手が届かない巨悪にくらいつくという本書『警視庁特任捜査官 グール』(宝島社文庫)は、異色の警察小説だ。超法規的なダークヒーローが活躍する、暑気払いにぴったりな痛快作だ。
警察小説には大まかに二つの系譜がある。一つは出来るだけ忠実に警察の組織をトレースし、登場する警察官にも警察官らしい倫理や行動、発言を求めるもの。言ってみれば、「実録路線」だ。圧倒的にこちらが主流で、最近では退職した元警察官が書いた『新任警視』(新潮社)、『カルマ真仙教事件』(講談社文庫)などもあるから、そのリアリティは半端ではない。
一方、架空の警察組織を設定し、ありえない警察官を登場させるものもある。テレビドラマでは『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』など最近珍しくない。小説でも月村了衛さんの「機龍警察シリーズ」などがある。あえて名付ければ「SF路線」だ。
本書は、その路線でも、かなり針を振り切った作品だと言える。警察の中に「互助会」という非公式組織があり、そのメンバーは、さまざまな理由から殉職を偽装し、「死人」となった元警察官だ。家族も戸籍も失った彼らが特殊技能を駆使して、巨悪と対決する。
互助会を仕切るのは、表向きは警視庁犯罪捜査教導課の課長である如月隼人。エリートのキャリア官僚だ。潜入捜査をする伊藤や武闘派の黒澤、サポート役の女性、通称「魔法使(ウィザード)」ら少数精鋭の部隊だ。
アメリカの「証人保護プログラム」を参考に、独自のシステムをつくった。新しい身分で隠蔽された彼らは法律に縛られず、行動する。
薬品会社を偽装した暴力団への捜査で、黒澤はビルの躯体の要所に爆薬を仕掛け、深夜の人通りが少ない時間帯に、内部の設備ごと爆破解体工事をする荒っぽいことも平気でやる男だ。
海外の黒社会とつながりを持った暴力団は、「荒事師」と呼ばれる暴力を代行する業者を利用するようになった。
伊藤らはパチンコやスロットなど遊技機が適法かどうかを検査する団体の技師、古城を監視し保護する任務を与えられる。
カジノ構想が現実味を帯びた今、機器の不正を許せば、カジノがダーティーマネーの巨大洗浄機の役割になりかねない。古城はその不正を内部告発したのだった。
荒唐無稽な設定の中で、この攻防の動機は納得出来るので、読者は引きずられる。対抗する「荒事師」グループを率いるのは、中国の黒社会出身の楊。彼らの武器や暴力がまた半端ではない。
日本でも現実に、九州の暴力団がロケットランチャーを隠し持っていたとして摘発されたことがあったから、まったくの絵空事ではないだろう。
古城の情報をもとに、不正の捜査を進めていた女性刑事と黒澤が拉致され、命の危険が迫っていた。「魔法使(ウィザード)」は、ある秘密兵器を使い、敵に立ち向かう。IT機器を駆使する彼女のキャラクターが魅力的だ。
著者の鷹樹烏介さんは『ガーディアン 新宿警察署特殊事案対策課』(宝島社文庫)で第5回ネット小説大賞を受賞し、デビュー。シリーズ化されている。本書もシリーズ化にふさわしい世界観の作品だ。
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