このまま行くと、2050年には海洋中のプラスチックごみの重さが魚の重さを上回ると言われている。7月1日にスタートしたレジ袋の有料化によって、それまでなんとなく認識していた環境問題をグッと身近に感じはじめた人も多いだろう。このプラごみ問題とともに、最近よく耳にするのが「食品ロス問題」だ。
本書『捨てられる食べものたち――食品ロス問題がわかる本』(旬報社)は、食品ロスの現状、世界と日本の食料事情を解説したもの。イラストとふりがなつきで小学生が一人でも読めるつくりになっている。わかりやすく読みやすい一方、中身が詰まっていて知らないことの連続だった。
著者の井出留美さんは、食品ロス問題ジャーナリスト。株式会社office 3.11代表。奈良女子大学食物学科卒。博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊、日本ケロッグ広報室長などを経て独立。日本初のフードバンクの広報を委託される。「食品ロス削減推進法」成立に協力。第2回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門、Yahooニュース個人オーサーアワード2018を受賞。著書・監修書に『賞味期限のウソ――食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)、『「食品ロス」をなくした1か月 5,000円の得!』(マガジンハウス)、『食品ロスの大研究――なぜ多い? どうすれば減らせる?』(PHP研究所)ほか。
「はじめに」で食品ロス問題の概要を書いている。
「世界では、生産量の3分の1にあたる13億トンが毎年捨てられ、日本では、東京都民1300万人が1年間に食べる量が捨てられています。理由はさまざまです。作りすぎや仕入れすぎで、食べものを廃棄している企業。食べきれないほどの料理を注文し、残してしまう私たち消費者」
東日本大震災のとき、井出さんは食品メーカーの広報室長として、食品を寄付していたフードバンクとともに食料支援をおこなった。おにぎり1個を4人で分け合い、1日にソーセージ1本しか食べられない被災地。しかし、「人数分に少し足りないので配らなかった」などの理由で支援物資が捨てられることに、「悲しみと怒り」を覚えたという。この体験から会社を辞めて独立し、食品ロス問題や解決策についての啓発活動を続けている。
「大量の食料があるのに、必要な人に届けられないことに、強いもどかしさを感じました。......この本で、私たちをとりまく食の現実をぜひ知ってください。それがいのちの大切さについて考えるきっかけになれば、これほどうれしいことはありません」
本書は4章構成。1項目につき2ページ、計46項目を収録。「1章 『食』についての驚きの現実」では気が滅入りそうな日本と世界の驚くべき現実、「2章 食品ロスはなぜ生まれる?」ではいったいなぜ日本人は東京都民1年分もの食料を毎年捨てているのか、「3章 食品ロスを減らすには」では自治体・食品業界・ボランティア団体の食品ロスを減らす取り組み、「4章 私たちにできること」では食品ロスを減らすために1人ひとりができることを紹介している。
毎日の生活の基本となる「食」。しかし、ほとんどの人は「食」について深く考える機会がないまま大人になるのではないだろうか。本書は「1章」「2章」で「そうだったのか......!」という驚きと落胆の現実を突き付けられ、「3章」「4章」で現状を打開するヒントが見つかる、という流れになっている。
章の合間にあるコラムも見逃せない。ここでは2つ紹介しよう。まず「食品ロス」と「フードロス」の違いについて。「フードロス」は「食品ロス」と同じように使われているが、以下の違いから本書は「食品ロス」を使っている。
・日本語の「食品ロス」とは、食べられるのに捨てられてしまう食べものを指す。
・英語の「Food Loss」とは、もともと生産・加工・流通の過程で発生した食品の廃棄だけを指す(作りすぎて捨てられたりんご、加工の際に出た魚の骨、流通するときに割れたたまごなど)。
次に「消費期限」と「賞味期限」の違いについて。
・「消費期限」とは、安全に食べられる期限のこと。弁当、総菜、精肉、鮮魚、生クリームのケーキなど「5日以内の日持ちの食品」を対象に、年月日あるいは年月日に加えて時刻入りで表示。いたみやすいので、その日時をすぎたら食べないほうがよいとされている。
・「賞味期限」とは、おいしく食べられる期限のこと。3カ月以内のものは年月日、3カ月より長いものは年月日または年月で表示。期限は目安にすぎず、たいていの食品は実際より2割以上短く設定されているため、日付が切れてもおいしく食べられる場合がほとんど。
賞味期限の近いものから買う(棚の奥から取り出さない)、買いすぎない、作りすぎない、食べきれる量を注文する......。「食べもの=いのち」を大切にするためにできることは、じつは身近にいろいろあるとわかった。本書は、子どもも大人も一緒になって「食品ロス問題」を体系的にしっかり学ぶことができる一冊。染みついた習慣はなかなか変わるものではないが、本書は行動を変えるきっかけになりそうだ。
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