日本を代表する11人の環境化学者が、化学物質の地球規模の汚染の実態を最新のデータに基づいて解説し、警告を発している警世の書が本書『地球をめぐる不都合な物質』(講談社ブルーバックス)である。取り上げている物質は、ダイオキシンなど残留性有機汚染物質(POPs)、マイクロプラスチック、水俣病の原因として有名な有機水銀、PM2.5、重金属、免疫かく乱物質など。ほとんどは、「前にどこかで聞いたことがある」話だが、それから何十年かたち、事態はますます深刻になっているのだ。読んで楽しい本ではないが、読まなくてはならない本といえる。
スタバのプラスチックストロー廃止問題でクローズアップされたマイクロプラスチックによる海洋汚染は第2章で取り上げられている。プラスチックは年間4億トン製造されているが、きちんと処理せず、ポイ捨てしたもの、カラスやネコなどに食い散らかされたもの、ごみ箱からあふれたプラごみなどは、最終的にすべて海に流れ着き、紫外線で劣化して細かく割れ、マイクロプラスチックになる。
発生源はそれだけではない。化粧品や洗顔料に配合されたマイクロビーズ、フリースからは1回の洗濯で約2000本のプラスチック繊維が発生する。いずれも最後は海に流れ着く。いまや世界の海には50兆個以上プラスチックが漂っていると推定されている。それらは魚が食べ、それをエサにしている海鳥やカメなどの体にもたまる。アメリカ人の研究者は、アメリカとインドネシアの市場で仕入れた魚介類の全てからプラスチックを検出したと報告、日本でも、東京湾で取れたカタクチイワシを調べたら64匹中49匹からプラスチックが検出されたという研究がある。
カタクチイワシといえば「めざし」の主原料のひとつ。頭からがぶりと食べるもの。プラスチック汚染は防げない。プラスチックの海洋汚染は、いまや日本人の食生活にまで累を及ぼしていることがわかる。
プラスチックはもともと石油から作られていることもあって、油と相性がよく、ダイオキシンやPCBといった猛毒のPOPsを吸収する。また、プラスチックの添加剤や、その分解物の中には環境ホルモン作用をもつ物質もある。単なる固形の異物ではない。スタバのプラスチックストロー廃止には、こんなに大きな背景があった。
そのほか、中国からの飛来が問題になっているPM2.5については、魚や炭火焼の肉などから出る白、黒色の煙も含まれるのだという。日本の環境基準は空気1立方メートル当たり年平均で15マイクログラムなのに対し、米国は12マイクログラム、WHO(世界保健機関)の指針値は10マイクログラムということを知って、少しがっかりした。対策としてはマスクが有効のようだが......。
水俣病の原因となったメチル水銀については、過去の話ではなく、胎児期の赤ちゃん、とくに男児の出生後の発達に影響がありそうな調査がでているという。キンメダイ、メカジキ、マグロなどに多く含まれることが分かっており、厚生労働省は妊婦さんに対する摂取制限を呼びかけているが、まだ十分浸透していない――などなど、生活に役立つ情報も多い。一読しておいて損はない。
本欄では関連で『クジラのおなかからプラスチック』(旬報社)、『えっ! そうなの?! 私たちを包み込む化学物質』(コロナ社)なども紹介している。
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