読むべき本、見逃していない?

海に散骨・・・意外なルーツ知ってる?

海上他界のコスモロジー

 日本列島に住んでいた大昔の人々は、どんな生活をしていたのか。それを調べる大きな手掛かりになるのが遺跡だ。本書『海上他界のコスモロジー 大寺山洞穴の舟葬墓』(新泉社)は、千葉県館山市にある大寺山洞穴にスポットをあてている。同社のシリーズ「遺跡を学ぶ」142冊目だ。

 この遺跡の特徴は二つある。一つは、洞穴遺跡。もう一つは、「舟葬墓」が見つかっているということ。本書はこうした特徴をもとに、あまり知られていなかった「海上他界」という習俗の解明に取り組んでいる。

丸木舟を二つに断ち切った棺

 大寺山洞穴遺跡は、千葉県館山市の丘陵地帯にある。「安房の大寺」と呼ばれる総持院の裏手だ。標高約30メートル。海岸線から約500メートル。三つの洞穴があり、開口部は5~6メートル、奥行きは30メートル近くある。

 調査は古くから行われていたようだが、1993年からの7次にわたる本格的な発掘調査で、日本で初めて12基以上の丸木舟を棺にした「舟棺」が見つかった。長さ3メートルほどの丸木舟を二つに断ち切り、舳先部を身に、櫓部を蓋にしていたようだ。舟は故人が実際に使っていたものではないかと推定されている。多数の人骨、副葬品も出てきた。

 「舟棺」は洞穴内の壁面に沿って、ひな壇のように並べられていたようだ。それがのちに地震などで崩れ落ちたと見られている。いずれも杉材で、舳先が海の方向を向いていた。

 洞窟内は砂地で、温湿度が一定に保たれていた。タクラマカン砂漠の楼蘭では乾燥した状態の遺跡が見つかっているが、大寺山洞穴遺跡も同じような条件のため、木材が長く残ったと見られている。

 著者の岡本東三さんは1947年生まれ。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。博士(史学)。千葉大学名誉教授。千葉大学考古学研究室を率いて大寺山洞穴遺跡をはじめ安房の海食洞穴の調査研究にとり組んできた。著書に『縄文土器Ⅰ』(至文堂)、『東国の古代寺院と瓦』(吉川弘文館)、『古代寺院の成立と展開』(山川出版社)、『房総半島の先端から列島史を考える』(千葉日報社)、『縄紋時代早期 押型紋土器の広域編年研究』(雄山閣)などがある。

隆起と沈降をくり返す

 読者の多くは疑問に思うだろう。なぜ海岸線から500メートルも離れ、標高約30メートルの丘陵に海辺にまつわる遺跡があるのかと。本書の前半で、岡本さんはそのことを詳しく説明している。

 理由は二つ。気候変動による寒暖差で海水面は上下していること。もう一つは、房総半島は縄文時代以降も隆起・沈降していること。最近では、関東大震災時にも約2メートル隆起した地区があるそうだ。その結果、房総半島で海水面よりもかなり高い場所で、過去の海蝕によってできた洞穴が多く見られる。サンゴや貝塚も多い。全国の貝塚約3200か所の4分の1は房総半島にあるそうだ。

 現在は海から離れ、丘陵にある大寺山洞穴も、縄文時代から生活の場や漁労の前線基地として利用されていた、というわけだ。

 「舟棺」が出現するのは5世紀前半だ。その後、約250年間、継続的に墓として営まれてきたと見られている。土師器・須恵器などの土器類、甲冑・太刀・剣・斧などの鉄製品、管玉、勾玉・ガラス玉・耳環などの装飾具、金銅製品などが出土している。同時代の東国の大型前方後円墳から出土する副葬品と比べても遜色のないものだという。朝鮮半島からの舶載品と見られるものまである。こうした副葬品などから、岡本さんは、「海人族の首長墓」と見ている。

ヒルコは舟で流された

 本書は以下の6章構成。
 第1章 海からのまなざし
 第2章 海進と隆起のはざまで
 第3章 房総半島の洞穴に太古を求めて
 第4章 大寺山洞穴の縄紋人
 第5章 古墳時代の舟葬墓
 第6章 舟葬と海上他界

 タイトルにもなっている「海上他界のコスモロジー」については、主として第6章に出てくる。海とつながりの深い世界各地で「海上他界」に関する遺物、壁画、神話などが残っているという。北欧三国、バルト海沿岸、地中海沿岸などのほか、インドネシアやポリネシアなどアジア・オセアニアにも目立つ。舟葬については、実際に舟に遺体を乗せて流すものから、舟棺に入れて埋葬するなどいくつかのパターンがあるそうだ。

 岡本さんは、「舟葬」は、「つい最近まで各地の沿岸部には残っていた葬送にまつわる原風景ではなかったのか」と書いている。

 日本神話でも、海とのつながりをうかがわせる話がいくつかある。イザナキとイザナミが最初に生んだ、三歳にして脚の立たなかったヒルコは船(舟)で海に流される。そもそも日本神話には、「山彦」とともに「海彦」も登場する。古代の日本列島の集団では、海洋民も重要な構成要素だったことがうかがわれる。

 岡本さんは、「水平線の彼方の『あの世』に死者を運ぶ手段は舟であり、海上他界の発想や形勢は海洋民の原点である」と記す。そういえば、日本では、今も一部の地区で「精霊流し」が続いている。

 近年、海に散骨する人びとも少なくない。岡本さんは、「先祖返りというべきか、海に対するアイデンティティなのであろうか」とも書いている。

 BOOKウォッチでは同シリーズで『縄文の女性シャーマン――カリンバ遺跡』、『ヤマト王権誕生の礎となったムラ 唐古・鍵遺跡』ほか、関連で、『環状列石ってなんだ―御所野遺跡と北海道・北東北の縄文遺跡群』(新泉社)、『考古学講義』(ちくま新書)、『文化財分析』(共立出版)なども紹介している。



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  • 書名 海上他界のコスモロジー
  • サブタイトル大寺山洞穴の舟葬墓
  • 監修・編集・著者名岡本東三 著
  • 出版社名新泉社
  • 出版年月日2020年3月 5日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数A5判・96ページ
  • ISBN9784787720320

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