本書『縄文の女性シャーマン――カリンバ遺跡』(新泉社)のタイトルの中で、とりわけ異彩を放つのは「シャーマン」だ。呪術師。日本ではほとんど見かけない。そこに「縄文」と来れば、ますますミステリーじみている。「カリンバ遺跡」というカタカナ名の遺跡名も珍しい。というわけで何が書かれているのか知りたくなって手に取ってみた。
カリンバ遺跡は北海道の恵庭市にある。20年ほど前に大規模な発掘調査がおこなわれ、特大の4基の土坑墓が見つかった。そこをさらに調べると、土坑墓の底を厚くおおうベンガラ層のなかから、被葬者の髪を飾っていたとみられる朱塗りの櫛をはじめ、頭飾り、耳飾り、腕輪、帯など彩りあざやかな副葬品が大量に出土した。
土坑墓はざっと3000年ほど前の縄文時代後期末葉のものと推定された。見つかった装身具は多種多様。質・量とも前例のない素晴らしいものだった。遺物397点は重要文化財に指定され、一気に北海道を代表する遺跡になった。
いったいだれが、この遺跡をつくったのか。埋葬されているのはどういうひとたちなのか。研究者たちが特に注目したのは、見つかった装飾品の美しさと、それを作り上げた技術の素晴らしさだった。「現代の工芸家が作った」といわれても納得してしまうようなレベルだという。本書は長年カリンバ遺跡と関わっている木村英明・元札幌大教授と、恵庭市の担当者だった土屋眞一氏の共著だ。
本書では「朱塗りの櫛」について詳しい説明がある。赤、オレンジ、ピンクなど微妙に色目が異なる。ベンガラ漆や朱漆を幾重にも塗り、最終的に表面に発光性の良い朱漆を塗って仕上げるという手の込んだものだ。透かし文様まで入っている。本州各地で見つかる同時代の櫛とは形態、構造、色合いなどが大きく異なる。これらを残した人たちはいったいどのような精神世界に生きていたのか。
埋葬された遺体は腐敗分解し、歯や骨の破片がわずかに残る程度。年齢、性別などは特定が難しいので、副葬品から推定するしかない。候補者として浮かんできたのが「女性シャーマン」だ。多数の装飾品を製造して身を飾るということは、すでに女性がその社会で、かなりの存在感を持っていた証だ。合葬墓のなかで帯を巻いた人が「女性シャーマン」だった可能性を示唆する。
東北アジアでは今も多くの部族に女性シャーマンがいる。その一例として沿海州のウデヘのことを紹介している。本欄でも『トラ学のすすめ――アムールトラが教える地球環境の危機』(三冬社)で、このウデヘのことを紹介した。シベリアで野生のアムールトラと共存する民族だ。3000年前の北海道の縄文遺跡が、時空を超えて現代のシベリアに生きる少数民族と重なる気がした。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?