産業や社会、労働、学業から、生活環境のなかでとくに気づかないところにまでデジタル化は及んでおり、今後ますますの進化が見込まれている。それを担うのはAI(人工知能)や、さまざまな機器をインターネット接続するIoTなどのテクノロジーだ。
米国や欧州各国のほか中国などでは、新しいテクノロジーをめぐり急ピッチで大規模な研究開発が行われているという。日本でもこのところは連日のように自動運転技術などについて報道されており、最先端でこれらの国と競っている印象だ。ところが、本書『テクノロジー・ファースト』(朝日新聞出版)では、それがとんでもない誤解であることを指摘する。
「〇〇ファースト」とあれば「〇〇第一主義」とか「○○を優先して考えましょう」ということだが、本書のタイトルは、日本では実はテクノロジーが軽視されていることを嘆き、それに対する警告の意味を持つようだ。
その実態を、各種報道を引用して、こう指摘する。2018年度AI予算としてアメリカが5000億円、中国が4500億円という政府予算をつぎ込んでいるなか「日本の予算は770億円でも過去最大というのだから、AI開発に大きな格差を生むきっかけになりかねない」。また、同じ記事から米国の民間投資が「5兆円以上」なのに対し日本のそれは「600億円以上にとどまる」という比較をあげ「これで危機感を抱かないとすればよほど楽観的」と述べる。
著者は、基幹システム開発などを手がけるIT企業の代表取締役CEO。本書では「TRON(トロン)プロジェクト」のリーダーであるコンピューター科学者、坂村健氏や、公立はこだて未来大学教授でコンピューター将棋やゲームなどを通したアプローチからAI研究に携わる情報工学者、松原仁氏らへの取材を交え、日本が抱える課題などを論じている。
18世紀に英国で起きた最初の産業革命では「蒸気」が、19世紀の米国とドイツを中心にした第二次産業革命では「石油」と「電力」が生まれ、機械化により作業能率の大幅な向上が実現し、動力の進化で工場での大量生産が可能になったものだ。その後、しばらく間を置き20世紀後半、コンピューターが登場して自動化が進み、これが第三次産業革命とされる。
そして、すでに第四次革命の兆候もみられており、それは、IT化が一層進化し、それをAIによりコントロールするものだ。著者は、このままでは日本は、この大きな潮流のなかでメーンストリームに乗れず傍流に追いやられると危機感を募らせている。
「第四次産業革命」という言葉は2016年、世界経済フォーラムの年次総会である「ダボス会議」で取り上げられたもの。同フォーラムは世界経済の動向に大きな影響を与えることで知られ強い発信力を持ち、先進国を中心に関連産業がリソースを動員してイニシアチブを握る動きが勢いを増した。ドイツでは独自に「インダストリー4.0」というプロジェクトを立ち上げ製造業のIT化を推進中で、国家プロジェクトとして世界初の試みという。
本書では、こうしたテクノロジーをめぐる世界の動きを「産業革命4.0」という用語を使って、細部にわたる展開をこう予想する。「産業革命4.0を可能にするのは、AI、IoT、ブロックチェーンといったITテクノロジーの進化。IoTによって収集されるビッグデータをAIで分析しそれをブロックチェーンで分散管理するような新しいソリューションがいくつも、まるで雨後の筍のように、あらゆる業界から誕生するだろう」。
そして、AIとブロックチェーンについては、次代のシステムの根幹にかかわるため「産業革命4.0」のなかでシェアを握れば、そのまま巨大なプラットフォームを形成する可能性が高いと予想。過去の代表例としてアップルのiPhone(アイフォーン)をあげ「ソフトウエアメーカーはiOSのアプリ開発業者になるほかなく、莫大な利益がアップルに」もたらされたことを指摘する。
著者はIT企業の経営者として、アップルをモデルにプラットフォームを獲得しようという心意気を持つものだが、多くの経営者らがそうした進取の考えがあるのか疑わしい様子を目の当たりにしてきたことを嘆く。「徹夜を重ね書きあげたプログラムが一体、私たちの生活の何を変えるのか。そうした議論はどこでも聞かれなかった。まるで『IT化』を言い募り、官公庁から予算を勝ち取ることだけが、ITの可能性であるかのような話ししかなかった」。
「産業革命4.0」の本番は、これからの50年にあると著者はいう。日本が真の「テクノロジー・ファースト」の国になるかどうかは、この50年間にかかっている。若い世代にはとりわけ深刻なテーマだ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?