腸内細菌と聞くと、大概の人は「腸内フローラ」のことですね、とピンとくる。腸の中にいる大量の細菌類で、善玉菌と悪玉菌がいる――本書『腸内細菌の逆襲 お腹のガスが健康寿命を決める』 (幻冬舎新書)は、主としてその活動のマイナス面を最新研究に基づいて解説したものだ。巻末には多数の海外文献が掲載されている。一般向けの新書では珍しい。
「ビフィズス菌は便秘に逆効果!」「『食物繊維を多くとれ』はウソ!」など、常識とはちょっと違う刺激的な警告が帯に並んでいる。
著者の江田証さんは1971年生まれ。医学博士。自治医科大学大学院医学研究科修了。江田クリニック院長。日本消化器病学会奨励賞受賞。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。米国消化器病学会(AGA)インターナショナルメンバーを務める。著書に『医者が患者に教えない病気の真実』『病気が長引く人、回復がはやい人』『おなかの弱い人の胃腸トラブル』(いずれも幻冬舎)などがある。
腸内細菌はこれまで私たちの健康の味方と考えられてきた。しかし最新の研究で、現代人の食生活の乱れ、ストレス、抗生物質の乱用などによって腸内細菌が異常に増え、腹部の張り、ガス、下痢や便秘を招く小腸内細菌増殖症=SIBOが発症することがわかってきたという。現在、1700万人もの日本人が原因不明のお腹の不調に悩まされているそうだ。慢性的な疲れ、だるさ、集中力の低下、がん、動脈硬化、心不全、肝不全などあらゆる症状や病気につながるSIBOを予防・改善するための食事・生活習慣と最新療法を、腸のスペシャリストがくわしく解説――というのが本書の概要だ。
ウイルスや細菌は、環境の変化で悪さを始めるケースがある。一例として著者は、新型コロナウイルスをあげる。現在のところ、このウイルスは、もともとはコウモリの体内に棲んでいたが、何らかの原因で人間界に引っ張り出されたと見られている。コウモリとは共生していたのに、「住所」が変わったことで遺伝子変異を起こしながら大変な病原性を発揮しているというのだ。
こうしたことが人間のお腹の中でも起こっている。腸内の細菌は、もともと人間の免疫力を高めるなど有用な働きをするものだった。それが不摂生や、従来とは異なる食生活、ちょっとした風邪で抗生物質が投与されるなどで、状況に変化が生じる。細菌が「虐待」を受け「逆襲」を始めているのだという。その一つが、上述の小腸内細菌増殖症=SIBOというわけだ。糖尿病患者の4人に1人に細菌異常増殖が見られるという。
食べ過ぎで、小腸内に過剰な栄養分が入ってくると、人間の腸は吸収する分を増やして対応する。しかし、この状態が続くと、吸収されない糖が小腸内にただよい、この糖を栄養分とする細菌が増える。そして血糖上昇を抑えてくれる。しかし、さらに糖が増え続けると――。
本書は「第1章 腸内細菌に操られるヒト」「第2章 腸のガスから万病が始まる」「第3章 医者もわかってくれないお腹のトラブル」「第4章 小腸を襲うSIBOという難病」「第5章 長年苦しんだ人を救う最新治療」「第6章 最良最強の食事療法『低FODMAP食』」の6章構成。それぞれに多数の項目が設けられている。
「便秘の女性ほどビフィズス菌が多い」という項目がある。ビフィズス菌はもともと小児の下痢症に対して処方されるものであり、それが多くあるということは便秘になるということだ。ではなぜ、ヨーグルトを食べて便秘が改善する人が多いのか。それは、ビフィズス菌の効果ではなく、ヨーグルトの中に入っている乳糖(ラクトース)によるものだという。日本人の多くは乳糖を分解するラクターゼを持っていない。したがって乳糖不耐症の人がヨーグルトを食べれば、下痢になる。これが、ヨーグルトで便秘が治る仕組みだという。
「『食物繊維を多くとれ』はウソ」という項目では、食物繊維が多すぎては逆効果と指摘している。「適量」を推奨し、間食は一切とらないことをすすめている。これは小腸を休ませるためだ。
お腹の調子が悪い人は、しばしば「過敏性腸症候群」と診断されてきた。主な原因はストレスというわけだ。しかし、最新の研究では、腸の細菌数が、正常の人より過剰に増え、84%の人がSIBOを合併していることがわかってきたとも。単に「気のせい」ではなかったというわけだ。
最終章では「低FODMAP食」について詳しく解説されている。要するに、小腸で吸収されにくい食物を避けるということ。「FODMAP」は、避けるべき食物の頭文字だ。詳しくは本書で確認していただきたい。
BOOKウォッチでは関連で『胃腸を最速で強くする』(幻冬舎新書)、『腸と脳』(紀伊国屋書店)、『ガンより怖い薬剤耐性菌』(集英社新書)なども紹介している。
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