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腸の中でどんどん作られている意外なものは?

胃腸を最速で強くする

 本書『胃腸を最速で強くする』(幻冬舎新書)は、ちょっと怪しいハウツー本かと身構えさせるタイトルだが、現役内科医が最新のデータをもとに書き上げた至極まっとうな本である。

 サブタイトルは「体内の管から考える日本人の健康」とあり、実際は胃腸だけではなく、消化管全体を取り扱っている。

昔ながらの教えが正しいことを再確認

 人は1個の受精卵から生まれる。受精卵が細胞分裂を繰り返して増えていくと、ある時点で細胞の塊の一部がへこみ始める。それがどんどん深くなっていき、ついに細胞の塊の反対側を突き破って貫通する。これが消化管となるという。最初のくぼみが肛門で、次に大腸、小腸、胃、食道となり、最後に空いた穴が口である。このため、「人間の体を巨大な『ちくわ』になぞらえることがある」と著者は指摘している。

 しかし、この管、ただボーッと食べ物を通しているわけではない。口から、食道、胃と食べ物が通る間に、消化し、体に必要な成分を吸収し、要らないものは排出しなければならないのだから、きちんとした役割分担があり、緊密な協力が欠かせない。

 というわけで、「胃腸を最速で強くする」には、食事の内容から、生活態度まで、日ごろの地道な努力が必要で、食べ物はよく噛んで、ゆっくり食べる。そうすれば唾液と良く混ざり、でんぷんが分解され、甘みを良く味わうことができるうえ、脳の満腹中枢を刺激するので、太りにくくなる。早食いの習慣は、高齢になってから誤嚥を招きやすい。高齢者の誤嚥性肺炎は命を縮める――など、昔ながらの教えが正しいことを再確認できる。

塩分やカフェインに注意

 もちろん、新しい話題もある。ひところブームになった激辛食品は良くない。唐辛子を大量摂取する人は、胃がん発症率は、そうでない人の1・7倍高いというデータ(メキシコ)があるという。塩分の多い食事も、胃がん発症率は最大2.3倍になる。たばこも悪い。肺がんのほか、食道がん(最大4倍)、胃がん(最大1.6倍)の発症率が高まる。

 大量のカフェイン摂取は下痢を招く。欧州食品安全機関は、コーヒーは1日に4、5杯までにするよう提言しているという。日本に規制はないが、日本人の半分は、遺伝的にカフェインで不快になる体質の人がいるから、要注意だ。

 このほか、私が関心を持った話題の中から、2つ紹介する。まずは美容に良いなどとブームになった水素水。実は水素は腸でどんどん作られている。おならである。その成分の大部分が水素で、食後の呼気の中には水素水の約10倍の水素が含まれている。おならを我慢すれば、より多くの水素が血中に溶け込むという。水素水愛好者は試してみたらどうだろうか。

 腸内細菌のバランスを整える、がうたい文句の善玉菌入りのプロバイオティクス食品やサプリメント。著者は「宣伝しているほどの効果があるかは疑問」という。仮に40億個の善玉菌を送り込んだとしても、腸内細菌全体の0.004%以下にすぎず、しかも、ほとんどの送り込まれた善玉菌は2日~1週間で体から追い出されてしまうからだ。それより水溶性食物繊維の多いキノコや海藻、山芋、納豆などを食べて腸内の善玉菌を応援したほうが確実だという。

 結構高い乳酸菌整腸剤を長年愛用してきた者として、かなり残念だった。

 本欄では関連で『腸と脳』(紀伊國屋書店)、『人生は「胃」で決まる! 胃弱のトリセツ』(毎日新聞出版)、『はじめての減塩』 (幻冬舎新書)なども紹介している。

  • 書名 胃腸を最速で強くする
  • サブタイトル体内の管から考える日本人の健康
  • 監修・編集・著者名奥田昌子 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2019年3月30日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書判・222ページ
  • ISBN9784344985421
 

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