瀬那和章さんによる本書『わたしたち、何者にもなれなかった』(株式会社KADOKAWA)は、「全部全部全部、あいつがいなくなったせいだ。」「30代、女子。いつまでもあの頃のままじゃいられない。」と、やや辛口なコピーが付いている。
本書のタイトルから、「何者」かになれると信じていた人が夢を打ち砕かれたときの失望、諦め、後悔が伝わってくる。ただ、望んでいたものかどうかは別として、誰もが「何者」かになれるはずだ。「何者にもなれなかった」と言う人は、現実に満足していないのだろう。
サキ、夏美、弥生、佐和子は、高校時代に映画同好会に所属していた。4人は高校1年の春に出会って以来、ともに映画を撮り続けた。サキは映画監督としての才能と生来のカリスマ性によって、3人の憧れの存在だった。
ところが12年前、プロになる夢がもうすぐ叶うというとき、サキは3人の前から姿を消した――。夏美、弥生、佐和子は30代になった現在、自分たちがあの頃思い描いていた生活を送れていないのは、サキのせいだと思っている。
夏美は、映画雑誌の編集者。大好きな映画に関わる仕事だが、近頃うまくいかない。ある夜、非通知の電話がかかってくる。声の主は「石田サキは、もうすぐ死にます」と告げ、サキの居場所を知らせた。
弥生は、4歳の息子をもつシングルマザー。パートをしながら、経済的、精神的に苦しい生活をしている。佐和子は、専業主婦。表向きは優雅な生活を謳歌しているように見えるが、独占欲の強い夫と不妊治療に疲れている。
サキはなぜ失踪したのか、もうすぐ死ぬのか、現在の3人がうまくいかないのはサキのせいなのか――。今さらサキに再会しても、過去も現実も変わらない。それでも、3人はサキに会いに行く。
率直な感想として、サキの現在と4人のその後について、読者の感動を誘う展開が気になってしまった。個人的には物語の展開以上に、本書を貫く「何者にもなれなかった」というテーマと登場人物のリアルな台詞が突き刺さった。
「選んだんじゃない。そういうふうにしか、なれなかったんだよ。自分の人生を振り返ったって、どこでなにを間違えたかなんてわからない。ほんのわずかな違いだと思うんだ」
「君は、夢を追いかけてたころの、特別だった自分が忘れられないんだ。......自分はまだ夢の続きにいる、他のみんなとは違うって、周りを見下して安心してる」
「自分で選んで、結婚や子供を持つことを後回しにしてきた。......いつか答え合わせをしたとき、どうしようもなく取り返しがつかなくなってから間違いに気づくんじゃないか」
著者の瀬那和章さんは、1983年兵庫県生まれ。2007年に電撃小説大賞銀賞を受賞し『under 異界ノスタルジア』でデビュー。その後一般文芸にも執筆の場を広げ、幅広い読者の支持を集めている。
瀬那さんは本書で、てっきり女性作家が書いているのかと思うほど、女同士の憧れ、見栄、嫉妬などの人には言えない微妙な感情を見事に描き出している。
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