1972年に高校2年生でデビューして以来、40年以上にわたり少女まんが界の第一線で活躍を続けているくらもちふさこさん。本書『くらもち花伝 ―メガネさんのひとりごと―』(発行 集英社インターナショナル、発売 集英社)は、くらもちさんの初の自伝。まんが以外の形でくらもちさんを知ることのできる、ファン待望の貴重な1冊だ。
一方、くらもちさんの作品を知らなくても、昨年(2018年)放送されたNHKの連続テレビ小説「半分、青い。」のカリスマまんが家・秋風羽織の作品の原作者と聞けば、ピンと来る人も多いだろう。
くらもちふさこさんは、1955年東京都生まれ。72年『メガネちゃんのひとりごと』でデビュー。代表作として、音楽を絵で巧みに表現した『いつもポケットにショパン』、田舎の懐かしい日常を描いた『天然コケッコー』、作品が絶妙に絡み合う『駅から5分』と『花に染む』などがある。『花に染む』で手塚治虫文化賞「マンガ大賞」受賞。現在(2019年)「ココハナ」(集英社)にて妄想系スペシャル「絵」ッセイ『とことこクエスト』を連載している。
本書は、ベテランまんが家のくらもちさんがどんな苦しみや喜びを感じて描き続けているのか、さらに創作・表現の秘密までもが語られている。目次を抜粋して紹介すると...
1章「ときめきの泉」
「このときめきを忘れるものか」/ちょっとひねったもので息を吐き出す/読者とシンクロした感じがあると、より深まる
2章「まわり道のまんが道」
ひらめいた「日常にひとひねり」/役作りから戻れない
3章「言葉で語らず、心を残すまんが術」
ゆっくり立ちあげ、未来は決めない/しぐさでキャラクターを表現する/背景は引き算で/「繋がっている」何かを描く
4章「くらもちふさこ作品解説」
1972―1978「別冊マーガレット」Early Days/1978―1990「別冊マーガレット」連載時代/1992―now「コーラス」「ココハナ」中心の時代
評者は同じ少女まんが雑誌でも『りぼん』を購読していたため、主に『別冊マーガレット』に掲載されたくらもちさんの作品を存じ上げなかった。そんな前知識のない評者だったが、本書を読み進めるうちにくらもちさんの人柄に好感を持ち、最後まで興味が途切れることはなかった。
「はじめに」で、くらもちさんはもともと「言葉」を覚えるのが少し遅かったこと、記憶もすべて「映像」であることを告白している。その上で「言葉にならない『思い』がまんがの源」としている。
「『言葉にならないもの』の集合体としてモヤモヤと映像として残っていて、うまくアウトプットできないのです。......日常で感じる感覚を、ある時期から私はまんがに描くようになりました」
また、まんが家は映画監督、役者、絵描きの仕事を一度に体験できる「欲張りな仕事」であり、中でもくらもちさんが最も楽しんでいるのは「演技」という。
「自分自身が登場キャラクターに乗っかって、まんがの中を思いっきり動き回っています。......自分が好きな世界を創り出して、その中で演技ができるなんて、楽しくて楽しくてしかたがありません」
一方、くらもちさんは成功談だけを語っているわけではない。特に印象的だったのが、脳腫瘍の大手術をした話。病気が発覚するまでの長い年月、脳腫に視神経が圧迫され続け、「時々視界の端にキラキラしたものや霊的なものが見えたり」したという。しかし、この「不思議な感覚」が「あまりに面白かったので作品に活用」したというから、表現に対する並々ならぬ情熱が伝わってくる。
最後に1つ、「背景は引き算で」を紹介したい。くらもちさんは「描かないことで効果的に表現できることもあるよ」とアシスタントに伝えているという。これはまんがに限らず、話したり書いたりするときにも共通すると思った。
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