無縁仏と聞くと、行き倒れの人などをイメージする。身寄りもなく、路頭をさまようなどして住所不定、名前すらはっきりしない。だから引き取り手がない・・・。
ところが今や無縁仏はそうした特殊な人のみにとどまらない。普通に屋根の下で暮らしていて亡くなった人が無縁になっている。その最新事情を丁寧にまとめたのが『さまよう遺骨--日本の「弔い」が消えていく』 (NHK出版新書)だ。
横須賀市の例が報告されている。2017年の年間死者4702人の中の約1%、51人が無縁遺骨。このうち身元不明は1人だけだ。
様々なケースがある。たとえば、夫に先立たれてから亡くなった妻の遺骨を、納骨してくれる遺族がいない。立て続けに3件あったという。親族らに連絡を取っても返事がなかったり、「交流がなかったので関係ない」といわれたり。火葬の費用を市が立て替えて、相続権のある親族から回収しようとしても、実際には回収できないことがほとんどだという。
かつては、引き取り手のない遺骨は市が管理する無縁納骨堂に入っていた。しかし300の骨壺を収容できる施設は満杯。無縁納骨堂の骨壺から遺骨を取り出し、市が設置した合葬墓に移している。市役所の生活福祉課というのは、こんなことまでやっているのだ。
他の自治体の例も紹介されている。さいたま市の無縁墓地に埋葬された遺骨は2003年には年間33柱だったが、15年には188柱。この10年間で1000柱以上を引き受けている。他の自治体でも近年急増する無縁骨に頭を痛めている。
浜松市のケースは特に印象に残った。1000人分の遺骨を収容できる施設があるが、毎年100人分ずつ増えるので収容しきれない。新たな納骨堂を造る予算も確保できない。そこで500人分を"処分"することに。それぞれの骨壺から小さなかけらだけを集めて二つの骨壺に残した。あとは「遺骨整理事業」として入札を行い、残骨灰を扱う業者が76万円で落札した。引き取ったのは遺骨400キロ、ドラム缶3個分だ。
本書は、その先もたどっている。ドラム缶を引き取った業者が向かったのは中部地方の山間部にある工場だ。運び込まれた遺骨は、まず巨大な磁石を使って金属類が取り除かれる。銀歯、骨をつないでいたボルトなどが次々とくっついていく。それらは専門のリサイクル業者に引き取ってもらい、残った骨粉を1600度の熱で溶かして容量を圧縮すると、黒いごつごつした石のようなものになっていた。
一般の残骨灰も含めて収入に充てる自治体も増えているという。横浜市では年間約3万件の火葬が行われるが、2017年度からは残骨灰に金や銀などの有価金属が含まれていることを前提に「売却」、5か月間で3700万円の値が付いたという。
本書は、NHKクローズアップ現代で放送された特集をもとにNHK取材班が単行本にしたもの。「第一章 遺骨が捨てられる?!」「第二章 遺骨を手放したい人々」「第三章 急増する『墓じまい』と新たな弔いのかたち」「第四章 誰に死後を託すか」に分かれている。
取材班は「超少子高齢化、核家族化、晩婚化に未婚化、熟年結婚・離婚率の上昇......。日本社会が大きく変化するなかで、さまよう遺骨が急増している。このことは決して他人事ではない」と強調している。
本書を読みながら、二つのことが頭をよぎった。一つは「月刊住職」などで取り上げられるお寺経営の危機。無縁仏というのは、亡くなっても葬儀が行われないケースが多いはずだから、お坊さんの出番がますます減る。
もう一つは昔、ホームレスの支援をしている人から聞いた話。無縁仏になるのは切ないから、仲間で金を出しあい、山梨県の方に、ホームレスの人たちの合同墓をつくっているというのだ。
本書で取り上げられているのは、病院や自宅、アパートなどで亡くなったのに、葬儀もあげられず、遺骨の行き場もない例が多い。平成の後半から「無縁社会」という言葉を耳にするようになったが、無縁骨は地縁、血縁が薄れた果ての象徴的な姿だ。平成とは無縁骨が急増した時代ということにもなる。
今や日本では65歳以上の人が全人口の4分の1を超えた。65歳以上の人がいる世帯では夫婦のみが最も多い。次がいわゆる1人暮らし。600万世帯を超える。国立社会保障・人口問題研究所によると、2035年には、東京では高齢者世帯の44%が1人暮らしになると予測されている。
加えて生活保護を受ける高齢者世帯も増えている。2000年には約26万人だったが、16年度には約75万人と、約3倍になっている。18年の概数調査では、生活保護を受給した163万世帯のうち半数近い80万世帯が1人暮らしの高齢者だという。これらのデータから、令和の時代に起こりそうなことが想定される。無縁骨がもっと増えるのは確実だ。
横須賀市のケースによると、亡くなった人は、わずかな額の貯金通帳を残していることが少なくないという。葬儀費用などに使ってほしいということか。しかしながら自治体では、故人の通帳のお金は下せないのだという。火葬などにかかる費用約20万円は公費でまかなわれる。
本欄では関連で『墓石が語る江戸時代――大名・庶民の墓事情』(吉川弘文館)、『こんな樹木葬で眠りたい』(旬報社)、『葬儀業界の戦後史』(青弓社)、『遺贈寄付 最期のお金の活かし方』(幻冬舎)、『もしも魔法が使えたら――戦争孤児11人の記憶』(講談社)、『私の昭和史』(岩波新書)などを紹介している。
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