外国人観光客が押し寄せ、住民がバスに乗れなくなるなどの「観光公害」が問題になっている京都。でもこの10連休には京都に行こうと思っている人も多いだろう。
本書『せつない京都』(幻冬舎)は、ちょっと変わった京都案内の本だ。著者の柏井壽さんは、京都市北区で歯科医院を開業するかたわら、京都にかんするグルメ本や『鴨川食堂』などの小説を多数書いている。そんな柏井さんがこれまで伝えきれなかったのが、京都の「せつなさ」だという。
多くの戦乱の舞台となった京都。寺社にも悲しい話が残っている。第一章「せつない神社せつないお寺」は、寺社にまつわるそうしたせつない話と名物料理やお菓子を紹介するという構成だ。
たとえば相国寺の宗旦稲荷社。安土桃山時代、千利休の孫として育てられた千宗旦という茶人がいた。宗旦に化けて点前を披露することもあった狐はある日、宗旦と対面し、驚いて茶室の窓を突き破って逃げる。ネズミを食べると狐は神通力を失ってしまうと母狐から教えられていたが、うっかり狐は豆腐屋の裏庭で、焼け死んでいたネズミを食べ、神通力を失い、死んでしまう。憐れんだ相国寺の僧侶たちが、祠を建てて祀ったのが、宗旦稲荷社だという。
この話の後に、相国寺のすぐ北にある御霊神社の門前にある「水田玉雲堂」という創業500年以上の老舗菓子舗の「唐板」という煎餅菓子を紹介している。一子相伝の菓子は一度ご主人が亡くなり途絶えたが、惜しむ声に押された奥さんが試作を重ね、復活したという「せつない」話も。
第二章は「せつない京都百景」と題し、「せつない眺め」を取り上げている。柏井さんが『鴨川食堂』を書くきっかけとなった東本願寺近くの「大弥食堂」にもふれている。おばあさんが一人で切り盛りする町の食堂だったが廃業してしまった。跡地には石碑があるというから、客に惜しまれていたのだろう。
京都の三大葬送地の一つ鳥辺野や唯一の現役お茶屋である「輪違屋」、紫式部の墓など、あまり観光ガイドブックには出てこないスポットも紹介している。
昨年秋(2018年)の台風で、かつてない被害を京都の寺社や山は被ったという。ある神社の境内で開かれたアートイベントを柏井さんは批判している。
「京の四方を護る神さまたちが申し合わせて、ひとつお灸をすえてやろうと思われたとしても、なにほどの不思議もありませんし、それを甘んじて受けなければいけないだろうとも思います」
謙虚さをなくした驕りがいまの京都にある、という危機感から本書を執筆したという。ほかのまちならともかく、京都だったら迷信と言われるかもしれないが、非科学的な祟りもありそうな気がしないではない。そんな話を集めたのが本書だから。
巻末には紹介した47の寺社と25の店のリスト、本文中にも随時地図が付いているので、観光ガイドとしても使える。
京都の寺社関連として、本欄では『プチ修行できる お寺めぐり』(産業編集センター)、『古典歳時記』(株式会社KADOKAWA)などを紹介している。
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