なにごとにも戦後史がある、ということはわかっていても、本書『葬儀業界の戦後史』(青弓社)に新鮮な驚きがあった。葬送手段の変遷については、井上章一さんの出世作『霊柩車の誕生』などがあるが、業界全体を「戦後史」というくくりで論じるのは珍しいのではないか。
著者の玉川貴子さん1971年生まれ。名古屋学院大学現代社会学部の准教授。小学生時代に体験した入院生活が、「死」をテーマに研究をしたいと思ったきっかけになったという。研修生として半年間、業界で働いた経験もある。したがって知己も多く、フィールドワークをベースにした貴重な研究となっている。
本書は、以下のような章立てになっている。
序 章 葬祭事業者にとっての終活ブームとケア
第1章 葬儀サービスを捉えるために
第2章 戦後の葬祭業界の変動要因
第3章 商品としての儀礼空間――景観と住空間から排除された死
第4章 葬祭業教育と遺族へのかかわり
終 章 葬祭事業という死のリアリティ
研究者として、過去に書いた論文が軸になっているので、全体としては学術書の体裁になっている。多数の引用元が詳細に明示されているが、一般の読者からすると、本書のところどころに出てくる業界関係者の述懐のほうが分かりやすく、興味深い。
たとえば東日本大震災で、仙台市の葬儀社員は遺族から厳しい言葉を浴びせられたというのだ。あまりにも突然で理不尽な死。
「どこかに怒りや悲しみをぶつけなければ、心が砕け散ってしまう。そんなご遺族の感情が、葬送業者に向けられたのは、ある意味では仕方のないことだったのでしょう」
遺体が多すぎて、火葬が進まない。遺族はいらだつ。
「少しでも長く安置所に置いて、追加料金を取ろうとしているんじゃないか!」
そんな罵声も飛んできたという。メディアでは「被災者の悲しみ」は報じられるが、こうした葬儀業者の思いを知る機会は少ない。
葬送業の業界団体が、1975年に通産省から認可を受ける時は、所管が厚生省か、通産省かで一悶着があったそうだ。墓地や埋葬の関係から厚生省という見方と、サービス業ということで通産省。結果的に通産となり、その後の業界の多様化、近代化、イメージアップが進んだ。
業界は近年、映画「おくりびと」で注目を集めたが、長く、世間の偏見の眼にもさらされてきた。ある業界人は2002年のインタビューで次のように語っている。
「社会的な蔑視は15年前に比べたらずいぶんやわらかいものになりましたが、今でも残っています。若い社員がそういうものにぶつかってつらい思いをしたとき、彼を支えてくれるのは、世の中のためになる仕事をしているという誇り」
遺体に触れる時は「故人様」と呼ぶ。「ホームレスだろうと、ホトケさんはホトケさん。だから手を合わすことは忘れるな」という先輩の教え。本書では随所に、関係者の貴重な肉声が出てくる。単なる学術書を超えた業界ドキュメントともなっている。
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