日本人の2人に1人が胃の不調に悩まされているという。その原因の大半は「胃弱」。程度が軽いので、ほとんどの人は不快感をしばらくがまんしてやり過ごしている。本書『人生は「胃」で決まる! 胃弱のトリセツ』(毎日新聞出版)は、それを続けていると、深刻な事態を招く可能性があると指摘する。著者は、自らも胃弱に向き合い「人生は胃から」と理解したという内科・循環器科専門医。胃で悩む現代人を救うポイントが数々示されている。
胃と同じ消化器系の肝臓は「もの言わぬ臓器」として知られ、ウイルスやアルコール、暴飲暴食などで脂肪肝や肝炎は自覚症状のないまま進み、気づいたときには肝臓がんで手遅れになることがあるという。これに対して胃は「もの言う臓器」であり、ストレスや食事の内容に反応して、痛みや不快という信号に変えて「悲鳴」をあげる。「その悲鳴はSOSにほかならない」のであって、胃では危機が迫っているのを教えてくれているわけだ。
このSOSをしょっちゅう感じる人が「胃弱」持ち。救援を手配せず無視を続ければ大きなトラブルに発展するかもしれない。もしかすると...と思ったら、本書にはチェックリストもあるので自己判定もできる。
自己判定で胃弱陽性となれば、その原因は、ストレスやピロリ菌感染、機能性ディスペプシア(FD)などのほか、生活の乱れや加齢なども考えられるという。
ストレスの場合は、多忙や人間関係、あるいは頑張りに見合った評価を得られないなど職場や学校などでのことや、睡眠不足、疲労、環境や気象状況によっても蓄積される。ストレスを感じると身体はその対応のため交感神経がオンとなり戦闘モードに入るものだが、副交感神経はオフになり胃の消化活動がストップする。こうした仕組みから、ストレスは胃に悪いとされるのだ。
ストレスを感じたら、その原因を解決させ、その後には身体を休めて精神的にリラックスできれば再び副交感神経が優位となって消化活動が再開する。だが「つねに副交感神経が優位な状態がよいわけではなく、交感神経と副交感神経がバランスよく働くことが胃だけでなく全身にとって理想的」なことをお忘れなく。
ストレスの場合は、自分の意識の持ちようで対応が可能だが、菌は病気に対してはそうはいかない。しかも、胃を荒らす第一の容疑者はピロリ菌という。胃がんに関係することが明らかになり除菌に努めるよう求められている。
感染率は50代以上で約4割。年代が高いほど高率で団塊の世代以降では70%以上が感染しているという説もあるという。子どものころに胃のなかに入り込むと除菌しない限りほぼ消えることはなく、長期にわたり胃粘膜に障害を与え続け慢性的な炎症を引き起こす。つまり「慢性胃炎」となるわけで、ここから、胃かいようや胃がんのリスクが増すことになる。
本書によれば第二の容疑者は「機能性ディスペプシア(FD)」。「胃の働きに異常があるため消化不良が起きる」病気で、胃痛や胃もたれ、腹部の膨満感のほか、吐き気、胸やけ、胃酸の逆流感などの症状があるという。しかし検査しても炎症などが見当たらず原因がわからず、炎症がないにもかかわらず「神経性胃炎」などと診断されたり、「気のせい」とされ治療されなかったりということもあった。
だが原因不明ながら胃の不調を訴えるケースが非常に多いことから、日本消化器学会ではFDを含む機能性消化器疾患の診療ガイドラインを作成、診断基準や治療法が広く知られるようになり2013年5月には、FDが保険病名として認められるようになった。ある医療機関では「胃の調子が悪い」と受診した人の約半数がFDと診断されたとする報告もあるという。
FD症状の改善には、ピロリ菌の除菌成功率向上に効果があるとされるLG21乳酸菌が有効とされているそうで、本書では研究データを引用しながら解説されている。
著者の池谷敏郎さんは1962年、東京生まれ。東京医科大卒。同大で客員講師を務める医学博士。総合内科専門医、循環器専門医として臨床の現場に立つ傍ら、数々のテレビ番組で医学解説を行っている。自身も子どものころから胃弱だったが、大人になってからも酒やコーヒーなどの飲料や、油やスパイスたっぷりの料理が多く、胸やけと付き合う毎日を送っていたという。医師になってから、自分の症状が逆流性食道炎と判断。胃薬を服用する一方、食事には注意するようになったが、食生活そのものはあまり変えることなく過ごしてきたという。
30代半ばに開業医として、多くの患者らの生活習慣の改善を指導することになってから「医者の不養生」の転換を決意。約15キロの減量に成功し血液データが正常値になったばかりか、胸やけの原因だった胃腸症状まですっかり改善したという。「実践」を経験した医師だけに、メディアでの発言も説得力が強くなろうというものだ。
胃の不調を改善することは、深刻な事態の予防になるばかりではなく、痛みや不快感が除去されることで、毎日の食事を楽しめるようになり、ストレスコントロールも容易になる。さらには、睡眠の質を高められるなども期待でき、いわゆる生活の質(QOL=Quality of Life)の向上につながり、肌や髪の毛まで、全身の健康がカバーされる。
本書には特別付録として、管理栄養士でもある料理研究家、舘野真知子さんによる「胃に優しい食べ物ミニ事典」を併載。食材選びから調理法、スイーツのチェックポイント、ファミリーレストランでのメニューの選び方などについてヒントを提供している。
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