本書『劣化するオッサン社会の処方箋』(光文社新書)の著者、山口周さんは、前著『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』でビジネス書大賞2018準大賞を受賞した経営コンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループなどで鍛えた分析・プレゼン能力がいかんなく発揮された一冊だ。実にわかりやすく、ためになる書として強く勧めたい。
「オッサン」という言葉に抵抗をもつ人もいるだろうが、本書の「オッサン」の定義は以下のようなものだ。
1 古い価値観に凝り固まり、新しい価値観を否定する 2 過去の成功体験に執着し、既得権益を手放さない 3 階層序列の意識が強く、目上の者に媚び、目下の者を軽く見る 4 よそ者や異質なものに不寛容で、排他的
だから中高年の男性であっても、「オッサン」でない人はいるし、逆に若くても「オッサン化」している人はいるという。
大企業の不祥事や財務省の情報の改ざん・隠蔽など「オッサンの劣化」はキリがないほどだ。なぜ、いまの50代・60代にこうした事象が多いのか。山口さんはこの世代が「会社や社会が示すシステムに乗っかってさえいれば、豊かで幸福な人生が送れる」という幻想のなかで20代を過ごしたからだ、と指摘する。
さらに「70年代に絶滅した『教養世代』と、90年代以降に勃興した『実学世界』のはざまに発生した『知的真空の時代』に若手世代を過ごしてしまった」とたたみかける。こうして「アート」にも「サイエンス」にも弱いオッサンたちが、社会や会社の上にいることが問題の根源にあると断罪する。
さて、若手や中堅の世代はいかに「オッサン」に対抗するのか。山口さんは二つの武器を挙げる。おかしいと思うことに異議を唱える「オピニオン」と、権力者の影響下から抜け出す「エグジット」だ。明治維新の際も太平洋戦争終結の際も、中堅以下の世代がそうして既存の権力構造を攻撃したという。
でも自分のキャリアを守るために、そうしたことはできないという人に勧めるのが、汎用性の高いスキルなどの「人的資本」と信用や評判といった「社会資本」を厚くすることで、自分の「モビリティ」を高めることだという。
社会の変化が速い現在、年長者だからといって敬われる訳ではない。若者の方がいいアイデアを出し、行動できることも多い。ならば年長者はどうやって社会に貢献できるのか。山口さんは「支配的リーダーシップ」から「サーバントリーダーシップ」への転換を訴える。後者はアメリカのロバート・グリーンリーフによって提唱された概念だ。「地位にかかわらず、他者に貢献する」「部下の自主性を尊重する」「個人のやる気を重視し、組織の成長と調和させる」などがその属性で、「支援」がそのエッセンスだという。
本書では南極探検隊を組織した白瀬矗と、これを支援した大隈重信、東海道新幹線を企画した国鉄の若手エンジニアと、これを支援した国鉄総裁十河信二の成功例を紹介している。
ところで年長者の知的パフォーマンスの劣化を防止する方法が一つだけあるという。短期間で「劣化しない結晶的知能」それは古典に代表される「教養的知性」だという。哲学書を読み、美術や音楽を鑑賞する欧米のエリートと日本の支配層との違いは、歴然だ。
山口さんは、本を読まない若手にも厳しい。「概ね4割から5割の二十代・三十代が、一月に一冊も本を読んでいません」として、これが続けば、現在の「オッサン」よりも劣化した「ゾンビオッサン」が量産されると警鐘を鳴らす。
そして、「最もシンプルかつ重要な処方箋は、私たちの一人ひとりが、謙虚な気持ちで新しいモノゴトを積極的に学び続ける、ということになると思います」と本書を結んでいる。
「オッサン」世代の一人として、評者も本書の指摘を重く受け止めた。
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