人は手痛い失敗や失恋などで落ち込んだときに自分よりもっとひどい状況の人がいると思い、自分を慰め再起を図ることもあるのではないだろうか。本書『人生、死んでしまいたいときには下を見ろ、俺がいる。』(祥伝社)は、まさにそのような効能をうたった本である。
著者はAV監督の村西とおるさん。全盛期には年商100億円あったが、1992年に衛星放送の投資に失敗、50億円の負債を抱えて倒産。しかし、タオル販売、DVD販売、蕎麦店経営などを経て借金を返済した。2019年には自身がモデルになったネットフリックス配信のドラマ「全裸監督」が世界的な大ヒットになり復活したことで知られる。
天国と地獄を味わった男の"どんな逆境にも効く"メッセージというのは伊達ではない。
「第1章 逆境の向こうにナイスな季節がやってくる」、「第2章 海が割れるってことがあるんだよ」、「第3章 死のうと思ったことは1000回くらいあります」、「第4章 人間だもの、大変だね」、「第5章 生きてるって素晴らしーい!」の5部構成だが、どこから読んでもいいようになっている。
村西さんの語録が大中小の大きさが異なる活字であふれ、各章ごとに自伝的な記述がある。
「どんな苦しみだって耐えられる、過ぎ去ってしまえばすべて思い出になるから」 「お金がないときは妄想しましょう。それが再起の原動力になる」 「父は傘貼り職人。小学生のときの弁当のおかずがコオロギだった」
このあたりはまだ序の口だ。次第にボルテージが上がってゆく。倒産前にも危機があった。ドラマ「全裸監督」にも登場したが、ハワイの別荘で撮影中にFBIに踏み込まれ御用になった。頭にはピストル。英語がわからず死にかけた。
「捜査官は大声で『フリーズ』。が、『プリーズ』と聞き違え、なにが『プリーズ』なのかと起き上がろうとした。『フリーズ!』。大男の白人捜査官が必死の形相でコメカミに銃口」
このときは合わせて370年の求刑だった。スタッフ15人も捕まったので、その保証と弁護士費用に1億円かかった。優秀な弁護士を何人も雇い司法取引をし、ようやく日本に帰ることができた。この時期は人生でも一番堪えた、と書いている。
その後、ダイヤモンド映像を設立し成功を収めるが、商社の勧めで始めた衛星放送事業が失敗し、50億円の負債を抱えて倒産した。そのうち20億円は「よんどころないところ」からの借金だった。暴対法ができる以前のこと。2年間毎月8000万円の返済に追われた。
「借金50億円でも命があるんだからラッキー」 「私のような立場の人間は、自己破産なんかしたらダメなのです。自己破産せずに、それでもがんばっている。そこに私の『逆境に強い男』という商品価値があるわけです」
常にポジティブに生きてきたからこそ、今日の復活があるようだ。そんな村西さんの語録を眺めていると、「人生なんとかなるだろう」とあまり根拠のない勇気が湧いてくるから不思議だ。
本書は2017年にPARCO出版から刊行された『村西とおる語録集 どんな失敗の中にも希望はあるのでございます』を加筆修正し、新書化したもの。その後の「全裸監督」の世界的大ヒットにより、説得力を増したに違いない。
BOOKウォッチでは、村西さんがかつて設立した雑誌で編集長を務めた本橋信宏さんの『高田馬場アンダーグラウンド』などを紹介済みだ。村西さんは、映像だけでなく言葉へのこだわりも強く、「言葉は力なんです」とも書いている。
最後のページはこう締めくくられている。
「人生って、ナイスですね」
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