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新型コロナで「外国人労働者」はどうなるのか

  • 書名 移民の経済学
  • サブタイトル雇用、経済成長から治安まで、日本は変わるか
  • 監修・編集・著者名友原章典 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2020年1月25日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数新書判・240ページ
  • ISBN9784121025753

 日本で働く外国人が増えている。役所の統計によると2018年時点で148万人。この10年で約3倍になったという。少子化で不足している日本人の労働力を補う形だ。19年4月から外国人労働者の受け入れを拡大する新制度がスタートし、今後5年間でさらに35万人増やすことが見込まれている。

 「経済」という切り口から見たとき、外国人労働者は日本にどのような影響を与えているのか、あるいはこれから与えることになるのか。本書『移民の経済学』(中公新書)は雇用や賃金、経済成長や物価、貿易、税と社会保障、治安・文化などを経済学の視点で分析する。

参考文献はすべて英語

 著者の友原章典さんは1969年生まれ。2002年、ジョンズ・ホプキンス大学大学院よりPh.D.(経済学)取得。世界銀行や米州開発銀行にてコンサルタントを経験。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営大学院エコノミスト、ピッツバーグ大学大学院客員助教授およびニューヨーク市立大学助教授等を経て、現在は青山学院大学国際政治経済学部教授。著書に『理論と実証から学ぶ 新しい国際経済学』(ミネルヴァ書房)、『国際経済学へのいざない(第2版)』(日本評論社)、『実践 幸福学』(NHK出版新書)など。

 経歴を見ても分かるように、友原さんは外国暮らしが長い。帰国子女ではないが、人生の3分の1は海外生活だという。そんなこともあり、巻末に並ぶ60冊ほどの参考文献もすべて横文字だ。日本で出版されている日本人研究者の本としては極めて異例ではないか。移民問題で先行する欧米の研究や事例を軸にしているということだろう。あるいは将来、英文での出版も意図しているのかもしれない。

 「序章 移民と日本の現在」に続いて、「第1章 雇用環境が悪化するのか」、「第2章 経済成長の救世主なのか」、「第3章 人手不足を救い、女性活躍を促進するのか」、「第4章  住宅・税・社会保障が崩壊するのか」、「第5章 イノベーションの起爆剤になるのか」、「第6章 治安が悪化し、社会不安を招くのか」、「終章 どんな社会を望むのか」に分けて論じている。

「損する人」も「得する人」もいる

 それぞれが容易に答えの出るテーマではない。例えば移民が増えると凶悪犯罪も増えると心配する人がいるが、データを分析すると、明白な証拠はないというのが大方の見方だという。家事代行サービスや育児支援サービスが利用しやすくなり、女性の社会進出が進むのではないかと期待する人もいるが、おそらくその恩恵を受けるのは一部の女性だけだろう。労働市場に与える影響についても結論は出ておらず、私たちの税・社会保障の負担が増えるかどうかも不明だという。

 とにかく現状でははっきりしないことだらけ。というのも、移民問題では「損する人」「得する人」の両方がいるから、調査の対象や方法によって相反する結果が出る。海外の研究では、経済的な損得勘定が、移民賛否の重要な要素になるということがわかっているそうだが、中には自分は得をする側でも、社会全体への影響を考えて反対ということもありうる。著者は常に性急な結論ではなく複眼的な情報や見方を提供する。

 ところで、移民とはどう人たちなのか。実はきちんとした定義はないという。国連広報センターは「定住国を変更した人」を移民としている。この基準によれば、日本には現在250万人超の移民がいるということになる。出入国在留管理庁によると、2019年6月現在の中長期在留者と特別永住者を合わせた在留外国人数は282万人を超えて過去最高。

 『ふたつの日本――「移民国家」の建前と現実』 (講談社現代新書)によると、「帰化者」や日本国籍の「国際児」などを含めると、約400万人に膨らむという。最も厳密に「永住権」を持つ外国人のみをカウントすると、108.5万人だという。

どういう未来を望むのか

 BOOKウォッチでは「移民」関連書を多数紹介してきた。『団地と移民』(株式会社KADOKAWA)によると、埼玉県川口市の芝園団地は全世帯2500戸の半数が中国人。愛知県豊田市の保見団地は全住民8000人の半数がブラジル人などの日系南米人。日本国内の一部の団地は今や「移民」の定住地になりつつある。

 『〈超・多国籍学校〉は今日もにぎやか!――多文化共生って何だろう』(岩波ジュニア新書)によると、横浜市泉区にある市立「飯田北いちょう小学校」は17年12月現在、外国籍の児童が120人。親が学区にある県営団地に住んでいるケースが多い。近くにインドシナ難民定住促進センターがあったことによる。

 『コンビニ外国人』(新潮新書)によると、日本にいる外国人留学生は27万人。そのうち26万人がアルバイトをしている。5年前の2.5倍。そこには日本特有の事情がある。留学生の場合、法律で原則的に週に28時間までを上限として働くことが認められているのだ。一日平均で4時間までは留学生も自由にアルバイトできる。この「28時間」という上限は、世界的に見ると、きわめてゆるい規制だという。

 日本の「外国人技能実習制度」のもとで来日した外国人労働者は28万人強。そのうち失踪者は18年が9052人。かなりの比率だ。問題を抱えた制度だということがわかる。『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社)は、こうした外国人労働者の悲惨な実態に迫る。

 このほか『世界史を「移民」で読み解く』(NHK出版新書)、『移民と日本人』(無明舎出版)、『移民国家アメリカの歴史』(岩波新書)、『移民たちの「満州」』(平凡社)、『マッドジャーマンズ--ドイツ移民物語』(花伝社)、『外国人の受入れと日本社会』(日本加除出版)なども紹介してきた。

 友原さんによると、日本では、移民の経済学的な研究はあまり進んでいないという。参考文献がすべて英語というのも、そういう事情があるのかもしれない。本書を通じて、移民によって得られるものと失うものをきちんと認識したうえで、どういう未来を築きたいか、私たちの目指す社会の方向性を考えるきっかけになれば、というのが著者の希望だ。

 ところで、本書に書いてあることではないが、今回の新型コロナウイルスで世界各国の「外国人労働者」はどうなっているのだろうか。彼らの多くは、それぞれの国の経済や産業の下支え役として不安定な待遇を強いられ、ピンチを乗り切るだけの蓄えが不十分で、医療機関を受診する機会も乏しいと思われる。ちょうど2020 年3月22日の毎日新聞ネット版には、「新型コロナウイルスの感染者が急増する米国で、検査や治療をためらう声が移民の間に広がっている。不法滞在が発覚したり、政府の新たな移民規制策により永住権の取得などが難しくなったりするのを心配しているからだ」というニュースが出ていた。新型コロナウイルスが日本の外国人労働者にどんな影響を与えているのか、まだあまり報じられていないようだが、大いに気になるところだ。

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