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コンビニのおにぎりから「日本社会のカラクリ」が見えてきた

コンビニ外国人

 大手コンビニエンスストア、セブン-イレブン・ジャパンの加盟店が、24時間営業をストップし、本部と対立していることが報じられていた。法的な問題はともかく、それだけコンビニの現場は人手不足が深刻だということだろう。

 本書『コンビニ外国人』(新潮新書)は、そのコンビニで急増している外国人労働者に焦点を当てたものだ。特に何かを声高に叫ぶわけではない。100人以上の関係者の聞き取りし、公的なデータに準拠しながら淡々とつづるルポルタージュだ。それがかえってこの問題の奥に潜む日本社会の見えにくい現実を浮かび上がらせ、不気味さを感じさせる。

加盟店の「反乱」で社会問題化

 著者の「芹澤」という名前を見て、評論家の芹沢俊介さんかと思ったら違っていた。似ているが、こちらは芹澤健介さん。1973年生まれ。横浜国立大卒。ライター、編集者、構成作家をしている人だという。NHK国際放送の番組制作にも関わり、長年、日本在住の外国人の問題を取材してきたそうだ。

 本書は2018年5月に出版され、各方面で話題になって順調に版を重ねてきた。その大きな理由は、今では日本人の社会生活に不可欠になっているコンビニの現状と問題点を、早々と指摘してきたことによる。

 冒頭、著者は昨今話題の「24時間営業」について書いている。業界内で「見直すべき」という声が出始めているのだという。

「しかし、いまのところ大手各社が拡大路線を取り下げる気配はない」
「業界最大手のセブン-イレブン・ジャパンの古屋一樹社長は、雑誌の取材に対して『二十四時間営業は絶対に続けるべきだ』と明言し、『加盟店からも見直すべきという要求は上がってきていない』としている」
「業界第二位のファミリーマートと第三位のローソンは、深夜帯に一定時間店を閉めたり、無人営業をするといった実証実験をはじめているが、業界トップのセブン-イレブンが『絶対に続ける』と言っている限り、深夜営業を取りやめることは難しいだろう」

 国内のコンビニはすでに5万5000店を超えている。大手各社が激しくシェアを争う。「24時間」を止めればそれだけ本部の売り上げが減るから止められない。とはいえ、加盟店の「反乱」でついに社会問題になりつつあるというのが現状だ。

週に28時間までアルバイトできる

 コンビニは時給が安い。最低賃金に近いから、募集しても日本人の働き手がなかなか見つからない。肩代わり役として近年、どんどん増えているのが「外国人」だ。ちょっと前までは、中国人や韓国人が主流だったが、都市部では最近、ベトナムやネパールなど他のアジア諸国の人たちが目立つようになっている。

 本書は「彼らがそこで働く理由」「留学生と移民と難民」「東大院生からカラオケ留学生まで」「技能実習生の光と影」「日本語学校の闇」「ジャパニーズ・ドリーム」「町を支えるピンチヒッター」の各章に分けて、コンビニを軸とした外国人労働者が急増している理由を丁寧に分析している。

 本書で「コンビニ外国人」を成立させている「日本特有の事情」を知ることができた。留学生の場合、出入国管理法で原則的に週に28時間までを上限として働くことが認められているのだ。一日平均で4時間までは留学生も自由にアルバイトできる。

 ところが、この「28時間」という上限は、世界的に見ると、きわめてゆるい規制だという。アメリカやイギリスで学生ビザでのアルバイトは原則禁止、カナダやフランスでは20時間程度まで、韓国では就学後半年以上たってからという決まりがあるそうだ。

 つまり「コンビニ外国人」の背景には、日本独特の「規制緩和」があることがわかる。日本にいる外国人留学生は27万人。そのうち26万人がアルバイトをしている。5年前の2.5倍に増えている。というわけで、こうした外国人アルバイトを養成するために、すでに大手のコンビニは国内に研修施設を持っている。ローソンなどは海外にも専用の研修施設があるという。

日本語検定に100万人

 日本には約250万人の外国人が住んでいる。このうち128万人が働いている人だ。その中でコンビニの外国人スタッフは全国で約4万人。全体から見ればごく一部に過ぎないが、芹澤さんはもう少し、深く実態を見つめる。

 例えば早朝、コンビニでおにぎりを買うとする。レジのスタッフは外国人だ。その数時間前、工場から店に運ばれてきたおにぎりを検品して棚に並べたのも外国人。さらに食品製造工場で働いていた人の6~7割は外国人。日本語が不十分な彼らと工場の日本人リーダーとの間を取り持ったり、業務内容を伝えたりするスタッフは別の会社から派遣された日本語がわかる外国人。「いくら」や「おかか」の製造工場でも外国人が働き、さらにその先のコメ農家やカツオ漁船でも外国人が働いている可能性が高い・・・。コンビニのレジにいる外国人だけは視界に入るが、見えないところではるかに多くの外国人が働いている。

 以上のように膨大な数の外国人に支えられて、コンビニにおにぎりが到着し、それを食しているのが我々日本人というわけだ。

 彼らが来日するときの最もポピュラーな肩書は日本語学校への留学生だ。日本国内はもちろん、海外でも日本語学校が乱立しているという。日本に来る前に少しは日本語ができないと話にならないからだ。

 恥ずかしながら、そうした外国人の日本語能力を測る試験というのがあることも初めて知った。受験生は年々増えており、2017年には国内外で100万人を超えたそうだ。初歩レベルの「N5」から同時通訳可能な「N1」まであるそうだ。

新大久保駅のアナウンスは「24か国語対応」

 彼らが日本で働こうとする理由の多くは「マネー」だ。わかりやすくいえば、日本語学校の学費を払う以上にアルバイトで稼ぐ。もちろん「28時間」の上限を超えて。著者は海外取材しようと、ベトナムの日本語学校に接触を図ったが、取材はすべて断られた。

 少し前まで、韓流ブームもあって、東京・新大久保は「リトル・コリア」として話題のスポット化していた。しかし昨今、急速に「多国籍タウン」になっているそうだ。「イスラム横丁」や「カラオケを備えたベトナム料理店」などもある。新宿区の外国人比率はすでに12%。ネパール人やミャンマー人も多い。新大久保駅のアナウンスは「24か国語対応」だという。

 18年7月11日の日経新聞によると、東京で暮らす20代の若者の1割、新宿区では20代の4割が外国人だという。本書を読むと、その中には「コンビニ外国人」が多いのではないか、新大久保への新規流入者が、新宿区の若者に占める外国人比率を押し上げているのではないかと推測できる。

 こうしてどんどん増加する外国人労働者だが、安倍首相は「移民政策をすることは断じてない」と言い続けている。そのカラクリも本書で知った。日本で言う「移民」とは、「入国の段階でいわゆる永住権を有する者」「就労目的の在留資格による受入れは『移民』には当たらない」ということだそうだ。

 留学生や外国人技能実習制度によって、外国人労働者は増えている。さまざまな問題が指摘されているのは周知のとおり。国連等の国際機関では一年以上海外で暮らす人はすべて「移民」に該当すると解釈され、その意味ではすでに日本は世界5位の移民大国になっているのだという。著者は強調している。

「政府の方針を分かりやすくいえば、『移民』は断じて認めないが外国人が日本に住んで働くのはOK、むしろ積極的に人手不足を補っていきたい、ということだ」

 本書を読んで痛感するのは、留学生のアルバイト問題や移民問題でも、政府がかなり特異な論法で現状を追認しているということだ。日本社会の薄皮を一枚めくってみると、いろいろ見えて来るものがあるということを本書で改めて知ることができた。

 本欄では『外国人の受入れと日本社会』(日本加除出版)、『〈超・多国籍学校〉は今日もにぎやか!――多文化共生って何だろう』(岩波ジュニア新書)、『5か国語でわかる介護用語集』(ミネルヴァ書房)なども紹介している。

 なお、評者には内外で日本語を教えている友人、知人が何人かいるが、彼らによると、学生たちの多くは極めて勉強熱心で優秀だとのこと。

  • 書名 コンビニ外国人
  • 監修・編集・著者名芹澤健介 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2018年5月16日
  • 定価本体760円+税
  • 判型・ページ数新書判・224ページ
  • ISBN9784106107672
 

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