新型コロナウイルスの感染が心配される中、なんとも豪気なタイトルの本が出た。本書『病気のご利益』(ポプラ新書)である。美術家の横尾忠則さんが、83年の生涯を振り返り、ユニークな病気克服法を公開したものだ。
「病気と出会うことで、ぼくは生活や芸術を見直すことができた。感謝こそしないものの、病は神が差し出してくれた贈り物のような気がする」
そんな横尾さんが「『日替わり病気』病」「片足切断の危機」「猫いないアレルギー」「突然の呼吸困難」「病室をアトリエに」「喘息、そして病気の終結宣言」など43のエピソードを披露している。
「朝、目が覚めるとどこかしら悪い」「五体そろって健全、言うことなしなんていう日はあまりない」という横尾さん。巻末の「病気関連年表」を読むと、病気のほかにも不慮の事故の連続だったことがわかる。
タクシーのドアに右手親指をはさみ骨折(24歳) タクシー乗車中に追突されムチ打ち症に。その後両足切断の危機もあったが、東洋医学で切り抜ける(34歳) 風呂場で転倒して肋骨骨折(44歳) 疲労で体調を崩し入院(54歳) 喘息治療薬の副作用でムーンフェイスに(64歳) 風邪がひどくなり、1ケ月静養(74歳)
「十年に一度の事故」というタイトルで奇怪なジンクスにもふれている。上記の年表でもわかるが、確かに10年に一度、危機を迎えているようだ。横尾さんは10年ごとの区切りによって危険から救われている、と意義を見出している。
実際、デザイン会社を辞めて絵の制作に夢中になったり、新しいシリーズに着手したり、仕事上の転機にもなったようだ。
本書は以前『病の神様』(2009年、文春文庫)として出たものに、新たな原稿を加えたものだ。同書を読んだ医師から今後の医学のヒントになる内容なので、医師たちが集まる研究会で講義をしてほしいという依頼を受けたという。本書にも書いているいくつかのエピソードについて話すと、心のエネルギーと病気のメカニズムを理解する糸口になると言われた。
閃きと直感を信じ、実行するのみ、というのが横尾さんの得た結論だ。10ケ月も苦しんだ膝の痛みが偶然立ち寄った神社の霊験なのか一晩で治ったとか、東洋医学の鍼灸あんまの先生の治療により片足切断の危機を乗り越えたなど、神がかり的な話も少なくないが、横尾さんは「ぼくの人生はずっとこれでした」と気にもとめない。
デザイナーとして一世を風靡した横尾さんは画家に転向、神秘的な画風で評価を高め、毎日芸術賞、紫綬褒章、旭日小綬章、朝日賞と受賞、受章を重ねてきた人だ。病気との付き合いにしても自らの直感に従ってきたようだ。
病気関連年表の最後2019年、83歳の項はこう書かれている。
「両手親指の関節痛、病院で指のレントゲン撮影中に自律神経を乱す/耳は難聴、目は乱視でピンボケ、鼻はアレルギー性鼻炎、喉は喘息、指は触覚のダメージと指の変形。絵を描くことが難しくなる/喘息で入院、一時退院中に39度の高熱で救急搬送。通院治療を続け、2ケ月後に自ら病気の『終息宣言』をする」
昨年は本当に大変な一年だったようだ。病気の「終息宣言」には、医師も同意した、と書いている。
「ぼく自身はこの本を書くことによって、ぼくの中の病気の記憶を吐き出す。そして次の病気を迎え撃つなり、追放するなりして、少しでも自然の摂理に従った健康な生き方に戻ろうと考え始めているのである」
この本の出版も一つの転機と横尾さんは考えているようだ。
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