読むべき本、見逃していない?

新型肺炎でわかった、人類にとって唯一の天敵!

  • 書名 感染症の世界史
  • 監修・編集・著者名石弘之 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年1月25日
  • 定価本体1080円+税
  • 判型・ページ数文庫判・384ページ
  • ISBN9784044003678

 新型肺炎で感染症への関心が高まっている。『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫)は人類が感染症と戦ってきた歴史を振り返ったものだ。

 新型肺炎は新型コロナウイルスの感染によるものとされ、「COVID-19」と名づけられた。本書は40億年の地球環境史の視点から、人類と対峙し続ける感染症の正体を探る。

マラリア4回、コレラ、デング熱・・・

 著者の石弘之さんは1940年生まれ。東京大学を卒業後に朝日新聞で科学部や外報部の記者、アフリカやアメリカの特派員を経て退社。国連環境計画(UNEP=本部ナイロビ)上級顧問や東京大学大学院教授、ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院教授、東京農業大学教授を歴任。この間、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事(ブダペスト)などを兼務し、国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞をそれぞれ受賞している。

 この経歴からもわかるように、新聞記者として様々な現場を取材したうえで、国連に移って世界的な視野で環境問題にかかわり、さらに研究者としてアカデミズムでも活躍してきた。アフリカの大使にもなっている。日本のジャーナリストとしては、かなり異色の人だ。

 とはいえその身体は「傷」だらけ。既往歴はマラリア4回、コレラ、デング熱、アメーバ赤痢、リーシマニア症など多数。高熱を出してジャングルのテントで横たわったままほとんど意識不明が続いたこともある。帰国後、日本の健康診断の調査票に病歴をそのまま書いたら、「ふざけないでください」と看護師さんに叱られたそうだ。

 本書はそうした多彩な活動歴や、自身の罹患体験などが凝縮された一冊と言える。記者出身だけあって、何よりも文章がわかりやすい。

 序章で「エボラ出血熱とデング熱――突発的流行の衝撃」を扱い、第一部で「20万年の地球環境史と感染症」、第二部で「人類と共存するウイルスと細菌」、第三部で「日本列島史と感染症の現状」、終章で「今後、感染症との激戦が予想される地域は?」という構成になっている。

感染症の巣窟になりうる中国

 この中でとりわけ興味深いのは終章だろう。ずばり、「感染症の巣窟になりうる中国」と言い切っている。その内容を簡単に紹介すると、以下のようになる。

 ・中国は歴史的にパンデミックの震源地。過去3回のペストの世界的流行も、新型インフルエンザも、遺伝子の分析から中国が起源とみられる。
 ・13億4000万人を超える人口が、経済力の向上に伴って国内外を盛んに動き回るようになった。春節前後には延べ3億人が国内を旅行し、年間に延べ1億人が海外に出かける。最近の12年間で10倍にふくれあがった大移動が、国内外に感染を広げる下地になっている。
 ・国内の防疫体制が遅れている。上水道が利用できない人口が3億人、下水道は7億5000万人。慢性的な大気や水質汚染から、呼吸器が損傷して病原体が体内に侵入しやすくなり、水からの感染の危険性も高い。
 ・高濃度の残留農薬、抗生物質など禁止薬物の添加、細菌による汚染、偽装食品などによる事件や事故も多発。

 たしかにSARSや、いくつかの新型インフルエンザは中国発。今回の新型肺炎も同じだ。本書では中国に加えて「多くの感染症の生まれ故郷」であるアフリカも「巣窟」として警告している。すべての災害のなかで、もっとも多く人類を殺してきたのが感染症であり、どんな対策も効果がないような菌やウイルスがいつ出現してもおかしくない、というのが著者の基本認識だ。

人類とウイルスの軍拡競争

 著者は本書の冒頭で感染症と人類との近況をまとめている。一時は、人類によって感染症はいずれ制圧されるのではないかと見られていたという。1980年にWHOが天然痘の根絶を宣言、その翌年にはポリオ(小児マヒ)の日本国内での発生がゼロになった。ところが入れ替わるかのように、エイズが想像を超えるスピードで広がり、次々と「新型」インフルエンザが登場する。エボラ出血熱、デング熱、西ナイル熱という予防法も治療法もない新旧の病原体が流行し、抑え込んだはずの結核までもが息を吹き返した。

 感染症とは、微生物(ウイルス・細菌・寄生虫)が人や動物などの宿主に寄生し、そこで増殖した結果、宿主に起こる病気のこと。かつては「疫病」「伝染病」とも言われたが、現在は「感染症」という言葉に統一されている。

 著者は言う。私たちは、過去に繰り返されてきた感染症の大流行から生き残った「幸運な先祖」の子孫だと。一方で、私たちが忘れていたのは、いま感染症の原因となる微生物も「幸運な先祖の子孫」だということだ。人間が免疫力を高め、防疫体制を強化すれば、微生物の側も対抗し、薬剤への耐性を獲得、強い毒性を持つ系統に入れ替わる。両者がまさに「軍拡競争」を繰り広げているのだ。微生物の役割はいろいろ。腸内細菌のように健康維持と深い関係を持つものもある。著者はこう結論づける。

「微生物は、地上最強の地位に登り詰めた人類にとってほぼ唯一の天敵でもある。同時に、私たちの生存を助ける強力な味方でもある」

 「縄文人が持ち込んだ成人T細胞白血病」「弥生人が持ち込んだ結核」など日本人の祖先についての興味深い記述もある。本書は2014年に洋泉社から刊行された同名本の文庫化だ。今回の新型肺炎で緊急重版、「新型ウイルスの発生は本書で警告されていた」というキャッチが新しく付いている。本書も、BOOKウォッチで紹介済みの『猛威をふるう「ウイルス・感染症」にどう立ち向かうのか』(ミネルヴァ書房)などと同じく、中学や高校の図書館には備えてほしい本だ。これからの感染症対策やウイルス研究を担う人材を育てることになる。

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