読むべき本、見逃していない?

神戸大の岩田健太郎教授が漫画家とコラボした感染症の手引き

もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典

 中国に端を発した新型コロナウイルス感染による肺炎は世界的に広がり、影響はますます深刻化している。ウイルスの感染封じ込めをめぐり厚労省と激しく対立したのが神戸大医学部感染症内科の岩田健太郎教授だ。横浜港のダイヤモンド・プリンセスに乗船し、「船内での検疫のずさんさや監視・隔離体制の不備」を告発し、海外メディアからも大きな注目を集めた。本書『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』(朝日新聞出版、岩田健太郎・著、石川雅之・絵)は「感染症屋」を自負してきた教授が「もやしもん」で知られる人気漫画家の石川雅之氏とコラボして、さまざまな感染症を引き起こすウイルスや細菌を漫画入りでわかりやすく解説している。もとは朝日新聞が発行する医療従事者向け月刊誌「メディカル朝日」に2011年から2016年まで連載され、2017年に出版された。

インフルエンザは数十年に一度大流行する

 雑誌連載なので一項目は見開き2ページ。そこに教授の解説と石川氏の漫画がつく趣向。全部で6章144項目あるが、章とは呼ばず、研究室で細菌を培養する「培地」と名付けるなど遊び心が満載だ。専門家向けの内容ながら、門外漢でも細菌の名前など難しい専門用語を飛ばしてしまえば結構、楽しく読める。最初に登場するのはインフルエンザウイルス。「インフルエンザウイルスにはA、B、Cと3タイプあるが、特に人間への病気で問題になるのがAとBだ。特にAは抗原の大きな変化、『不連続抗原変異』があるために、数十年に一度世界的な大流行を起こすことがある。これをパンデミックという」「インフルエンザ菌(桿菌=かんきん)は細菌であり、インフルエンザの原因と勘違いされたため、この名がついた」などとわかりやすい。短い行数ながら「1918年のスペイン風邪はA型インフルエンザH1N1の流行で何千万人の人が死亡したといわれる」としっかり要点をおさえている。

ヘルペスウイルスは再活性化して帯状疱疹の原因に

 水痘・帯状疱疹ウイルスはヒトに病気を起こす8種類あるヘルペスウイルスの一つだが、「空気感染する唯一のヘルペスウイルスで流行しやすい。ヘルペスウイルスには共通する特徴がある。一つ目は初感染と再活性化があること。二つ目は、一度感染すると身体から完全に除去することが(おそらく)不可能なこと。"Once herpes ,always herpes"(注:一度かかると常にヘルペスウイルスがいる)といわれる所以だ」。水痘には有効なワクチンがあり、2014年からは日本でも3歳以下に定期接種されるようになった。激痛を伴う厄介な病気の帯状疱疹を起こしやすくなる50歳以上には2016年になってようやく、水痘ワクチンが任意接種で受けられるようになった。他国に比べると遅れが目立っているようで、「日本のように保育園で毎年水疱瘡が流行......というのは非常識なのです、ほんと」と舌鋒鋭い。

 ペスト菌については「パンデミック(世界的流行)といえば現在ではインフルエンザだが、昔はペストのことだった。記録に残っている最初のペスト・パンデミックは6世紀のこと。エジプトで発生したペストはそのまま地中海に広がり、東ローマ帝国を襲ったのだった。二度目のパンデミックは14世紀で、ヨーロッパ全土をペストが襲い、ヨーロッパ人口は2~3割ほども減ったのである」「中世ヨーロッパは下水道も整備されておらず、非常に不衛生であった。ネズミやノミが繁殖しやすく、それがペスト流行の温床となったのである」。

マニュアル通りの対応では不十分と医療体制を批判

 エボラウイルスはエボラ出血熱を引き起こす恐ろしいウイルスだが、「意外なことに出血するのは少数派」といわれて少しびっくりする。致死率が非常に高い病気として恐れられているが、「先進国できっちり治療すれば20%台まで落とすことは可能である。種々の抗ウイルス薬が開発されているが、大事なのは徹底した集中治療・全身管理である。微生物と箱だけに集中してきた日本の医療者が最も苦手とするタイプの感染症である。冷静に適切に対峙することは可能だろうか」と日本の体制に強い疑問を投げかける。

 随所に日本の感染症治療体制や対応への歯に衣着せぬ批判が目につく。岩田教授は海外での診療経験が豊富で、アメリカと中国で感染症専門医として臨床を体験している。おもねることのない明快な発言は読んでいて気持ちがいいが、巻末にある石川氏との対談も滅法、面白い。病院の院内感染を防ぐ耐性菌対策について、「マニュアル通りにやっているだけの病院は大体うまくいかない。マニュアルにプラスアルファをしなきゃいけない、という時には、長い経験とか知恵とかでモディファイ(修正)をしていく必要があるからです」と率直だ。教授の言動に注目する向きには必読書といってもいいかもしれない。石川氏の漫画も味があって、「もやしもん」を知らなくても楽しめる。2017年の発行なので新型コロナウイルス問題についての言及はないが、新興感染症への対応や対策を考えるうえでも参考になるはずだ。

 BOOKウォッチでは岩田さんの『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』(ベストセラーズ)ほか、感染症関連で『世界史を変えた13の病』(原書房)、『猛威をふるう「ウイルス・感染症」にどう立ち向かうのか』(ミネルヴァ書房)、『知っておきたい感染症―― 21世紀型パンデミックに備える』 (ちくま新書)、『ウイルス大感染時代』(株式会社KADOKAWA)など多数を紹介済みだ。

BOOKウォッチ編集部 レオナルド)
  • 書名 もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典
  • 監修・編集・著者名岩田健太郎 著、石川雅之 絵
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2017年3月30日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数A5判・177ページ
  • ISBN9784023315846

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