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中国人はなぜ日本の水源を買うのか? 水ジャーナリストに聞いてみた

  • 書名 水がなくなる日
  • 監修・編集・著者名橋本淳司、やまぐちかおり
  • 出版社名産業編集センター
  • ISBN9784863111851

普段当たり前のように飲んでいる水が、急に飲めなくなったらどうするだろうか。
コンビニに行って水を買ってくるという手もあるだろう。しかし、水不足が進めばその額は値上がりするはず。水が高額になるということも考えられる未来だ。

『水がなくなる日』(産業編集センター刊)は水ジャーナリストの橋本淳司氏が、水をとりまく環境について、やまぐちかおり氏のユニークなイラストとともに分かりやすく解説する一冊。

「2050年、10人に4人は水が得られなくなる」というメッセージから始まる本書で伝えたかった「水の危機」とは。橋本氏に詳しくお話をうかがった。

(聞き手・文:金井元貴)

■インドのトイレ事情から見る「水と衛生」

――国内外の「水」を取り巻く状況がキャッチーにまとまっている本です。

橋本:水問題を難しく捉えるのではなく、飲み会や家庭で気軽に話せるネタを提供するような思いで作りました。「こんなことがあるんだ、ちょっと教えてあげよう」というような感じで、インパクトがあって覚えやすいフレーズを意識しましたね。

――「2050年、10人に4人は水が得られなくなる」にはじまり、水問題の要点がわかる60のフレーズが目次に並んでいますね。

橋本:水の問題って、あまり深入りされることがなくて、「アフリカには水がない」「日本でも節水しないとね」というくらいの話しか出てこないんです。そうではなく、様々な問題があることを知っていただければ、と。

――トイレについては驚く項目が多かったです。

橋本:水と衛生の話をするうえで、トイレは非常に重要です。トイレがないということが水を汚してしまう一つの原因になっていますし、健康にも悪影響を及ぼしてしまっています。

特に、最近私がよく行っているインドのトイレ環境は非常に悪く、水も不衛生であるため、その結果子どもたちが慢性的な下痢にかかっているケースが多く見受けられます。

――インドにはトイレがないんですか?

橋本:都市部と農村部でトイレ格差が広がっているということです。都市部では日本の一般家庭以上に立派な、高級ホテルにあるようなトイレがあって、それこそウォシュレットもついていますし、日本のメーカーの便器もよく見ます。

ところがスラムや農村部に行くとありません。あってもすごく不衛生な状況で、普及率は非常に低いです。健康被害にほかにも、子どもが排せつの為に外に出たまま連れ去られたり、女性の尊厳が守られていないという問題も起きています。この本でも書きましたが、トイレがないことの影響は社会的弱者に強く出るんです。

――トイレを設置しようという動きにはならないのでしょうか。

橋本:国をあげてトイレの普及につとめているにも関わらず、その歩みが遅いのは、意志決定を男性が担っているとことが大きな要因でしょう。男性はいざとなれば、木の陰などで排せつをすればいいでしょうから、逼迫した状況ではありません。でも女性や子どもは違いますよね。特に夜は危険ですから、わざわざ食事や飲み物の量を減らしてなるべく外に出ないようにすることもあります。そういうところで我慢を強いられるわけです。

――日本は水環境が非常に恵まれている国だと実感しました。

橋本:日本人はトイレに一番水を使っていますからね。1回ジャバーっとやるだけで10リットルの水が流れます。最新の節水型は5リットルを切るものもありますが、新製品が出たからと買い換えるものでもありませんし(笑)。

――最も水を使う場所がトイレであるということは、水を取り巻く環境が非常に良いということですね。

橋本:そのまま飲めるレベルの水でトイレを流してるのですから、何とももったいない気がします。

■なぜ中国人は日本の水源を買いこんでいるのか?

――日本は島国で森林が豊かですから、水資源が豊富なイメージがありますが、日本が置かれている状況について教えてください。

橋本:いくつかポイントがありまして、今後、気候変動によって雨や雪の降り方が変わってくるといわれています。その中で台風や集中豪雨への対策はより必要になるでしょうね。

また、現在進行形で雪溶けが早くなっています。本書で「スキー場の営業中止は雪不足のサイン」という項目がありますが温暖化の影響で雪が降らなかったり、早めに溶けたりしてスキー場が営業できなくなるような年は、水不足になります。夏場まで水がもたず、農作物への被害が出ます。

――雪解け水が早々に枯渇してしまうわけですね。

橋本:そうです。一昨年、利根川が渇水しましたが、原因はこれでした。冬場、水源のある群馬のスキー場では、2月に雪が降ってなんとかオープンしたのですが、3月になって暖かくなり、どんどん雪が溶けていきました。

また、今年は福井県で豪雪になりましたが、実はこちらも水不足が懸念されています。というのも、雪を溶かすために地下水を使うんです。地下水は年間通して14℃前後と温かいので。でも、そうすると、地下水が減ってしまい、さらに雪も溶かすので夏場まであるはずの水がなくなってしまいます。雪がたくさん降ったからといって、水不足にならないというわけではないということです。

あとは水源地の所有者が不明になっていて、そこに外国資本がやってきて水源を買っているというのも問題ですね。

――中国資本が水源地を買いこんでいるという話がありましたね。

橋本:広大な面積の土地が買われています。集落ができるレベルです。地元の不動産業者もメディアも知っていますが、それがオンエアされることはほとんどありません。

それはなぜかというと、中国資本が買いにきているという側面もあるんですが、反対に言えば、日本人がどんどん売っているということなんです。親から相続したけれど、自分は都会で暮らしていて、固定資産税もかかってしまうからいらないと考えている人が多く、需要と供給がマッチしているわけです。

――中国人はなぜ日本の水源を買っているんですか?

橋本:投資目的、開発目的のほかに住むことも想定していると思います。一時期、水を汲みあげて中国に持っていくという話も出ましたが、コストを考えると現実的ではない。。中国よりも日本の方がリスクは少ないし、中国の富裕層は現体制に対して相当強い危機感を抱いていますから。

――中国人の富裕層が中国から離れたがっているということですか?

橋本:彼らは有事の時にも自分の一族が暮らせていけるように保険をかけるんです。そのリスクヘッジの一つとして北海道の広大な土地を購入している。

中国で、富裕層に、その一族が生きていける食料を作る用地と水源を見せてもらったことがあります。有事に備えて水と食料を確保しているのです。

――危機に備えているわけですね。

橋本:彼らは中国で売られている野菜をまず口にしないですからね。自分たちが作っている物しか信用していません。

そういうニーズが中国人の側にもあったので、需要と供給のバランスがちょうど取れていた。まあこれは中国人が「買いこんでいる」というよりは、日本人が「手放している」というべきことだと思いますが。

(後編に続く)

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