集団の中で生きづらさを感じる。仕事に勤しんでいたり学生生活を送ったりする中で、日々そう思っている人は少なくないだろう。
職場でも学校でも、良くも悪くも協調性や足並みを揃えることが美徳とされがちだ。しかし、そんな枠にとらわれず、集団から抜け出し「ひとり」になれる人は大きな成果を手にする。
『ひとりでも、君は生きていける。』(学研プラス刊)の著者、金川顕教氏もその一人だ。
金川氏は、偏差値35から大学に合格。大学在学中には、合格率10%と言われる公認会計士試験に現役合格し、世界的会計事務所デロイト・トウシュ・トーマツグループの有限責任監査法人トーマツに勤める。しかし、将来を約束された同社をわずか3年で退社。その後、起業し、たったの5期で年商10億円を売り上げる事業を手掛けている。
同書は、「ひとり」になって起業や独立を勧めるものではない。集団の中でも「自立した個人」としているための方法や、その大切さが、数々の経験談を基に語られている。そこには「ひとりでも大丈夫」「ひとりでいることに不安を感じることはない」というメッセージも込められている。
インタビュー後編では、金川氏の「ひとり戦略」の支えになったもの、「ひとり」でも不安を抱えずに何かを始めるために大切なこととは何かを伺った。
(取材・文:大村佑介)
――本書の中で何度か出てくる金川さんの祖父からお言葉「じっちゃんの名言」が印象的でした。「人生、5%は修行でいい」「若いうちは10年、どん底があっていい」「攻めからしか守りは生まれない」以外に、ご自身が学びになった「じっちゃんの名言」はありますか?
金川顕教氏(以下、金川):祖父は経済がすごく好きな人で、ビジネスで稼いだお金を投資していて、物静かでストイックな人なのですが、私が大学受験に落ちたときにこうした名言を言ってもらいました。それで頑張れたという部分は大きかったです。
本に書いたこと以外で言われたのは「色々やってみなさい」ということですね。
「若いんだから、ミュージシャンになりたい時期があってもいいし、野球やりたい時期があってもいいし、勉強したい時期があってもいいし、いくつ失敗してもいいから全力でやりなさい」と。
祖父がかけてくれる言葉には数字が入っていることが多く、わかりやすかったですね。
もし、「人生、修行だよ」とそのまま言われても響かなかったと思うんです。でも「人生、5%は修行」ということは、人生80年だと考えると4年ですよね。「4年は結果がでなくても頑張れ」と言われたら、現実味もあるし、響きます。「若いうちは10年、どん底があっていい」も、「人生どん底のときがあってもいい」だと、どれだけどん底が続くんだろうって思ってしまいますからね(笑)。
――確かに「4年」とか「10年」など、時間が明確ならば、視界がクリアになりますよね。
金川:大学に入って以降は、自分の中でもやりたいことが明確にあって、不安もなかったのですが、一番心が不安定で「この先どうなるんだろう」と思っていた浪人時代の2年間に、祖父からもらった言葉は大きかったですね。
祖父の言葉ではないのですが、中学の頃に野球をやっていて、イチローの名言が支えになったこともあります。「コツコツやることで遠くに行ける」という意味の言葉だったのですが、それが勉強の励みになりました。「ひとり」で頑張るためには、そういった支えになる言葉に出会うことも大切なのかもしれないですね。
――支えと言えば、本書の中で「ひとりを支える最強の武器は営業力」だというお話がありましたね。「営業力」を磨くために特別にやったことなどはありますか?
金川:起業するときに、営業力を身につけるための講座を受けて、学んだり実践したりしていました。
たとえば、「人の営業をたくさん受けなさい」と言われたので、セミナーなどに足を運んで、実際にセールストークをしている人の話を「こうやってセールスするのか」と思いながら聞いてみたり。
あと「セールスの練習のために、一日一時間、カメラの前で話しなさい」ということを教えられて一日に3、4時間、月に100時間くらいはやっていました。
カメラを用意して録画する人を雇って、ひたすら話すんです。話す内容はセールス的なことに限らず、自己紹介でも読んだ本の感想でも、自分が伝えたいことでも、なんでもいいので、とにかくその時間は話し続ける。
終わると、カメラマンに話したことが刺激とかやる気とか学びとか、何かしらのメリットが与えられたかどうかを感想として聞いていました。それだけやったおかげで、人前で話せるようになりましたね。
スピーカー(喋る人)には二種類いて、「用意した内容をきちんと話すタイプ」と「その時、思ったことを何も準備していなくても話せるタイプ」がいるんです。営業は臨機応変に対応しなくちゃいけないので、特に後者のトークを勉強しました。
――月に100時間はすごいですね。学生時代から起業まで「ひとり戦略」を貫いて、事業を成功させ、現在の自由な時間とライフスタイルという幸せを手に入れた金川さんですが、どんなときにその幸せを感じますか?
金川:「成功して色々変わったでしょう」と言われることが多いんですけれど、昔から幸せなんですよね。
中学生の頃は親から「勉強しなさい」と言われていたんですけど、人に言われても自分が納得していないことをやるのが嫌だったので、親の言うことを無視して野球に打ち込んでいたんですよ。好きなことだったので野球をやっているときはもちろん幸せで、その後、音楽に没頭するんですけれど、それも幸せで。
そこから大学を目指すことに決めたんですが、そのときは親から言われたわけではなく自分がやりたいと思って決めた道だったから、勉強していることも幸せでしたね。
だから、幸せ度で言うと、「やりたいことをやる」ということが「たくさんの時間やお金」よりも、私にとっては幸せを感じることなので、基本的にずっと幸せなんです。
ただ、幸せではないと感じる場面もあるにはありました。起業したいと思ってからも監査法人に勤めていた頃です。起業したいのに雇われの身である自分というのが矛盾していたので、「このままじゃイヤだな」と思っていて。なので、どんなときに幸せを感じるかと言うと、やりたいことをやっているときが幸せなので、昔も今も同じように幸せですね。
――それは「ひとり」で没頭できることに正直にいるからこそ感じられる幸せですね。では、金川さんの今の夢や目標はどんなものですか?
金川:これは昔から一緒で「やりたいことをやる」ですね。浪人時代も、監査法人勤務の頃も、やりたいからやっていたことなので、お金や時間が増えても変わっていないです。
私は色々なことをやるのが好きで、今までやってきたことの枠にとらわれずどんどん新しいこともやっていくタイプなので、それがやりたいことなのかもしれないですね。
――もし、金川さんが持っているお金やモノ、周囲にいる人がすべていなくなって、完全にゼロから再スタートするとしたら、どんなことから始めますか?
金川:今の事業が上手くいっているのも人が関わってくれているからだと思うんです。自分一人の力だけで発展していくのは限界があって、そのためには優秀な人が必要です。
優秀な人というものにも「元から優秀な人」もいれば「まだまだの人」もいると思うのですが、私は「まだまだの人」を優秀に育てることから始めるんじゃないですかね。人を集めて、人を育てて、一緒にチームで仕事をしていく、ということです。
だから、人と接点が持てるように、ブログなのか、勉強会なのか、懇親会なのか、どこかの会社に入るのか。そういった行動を起こして、その中で自分のやりたいことに賛同してくれる人を集めて、育てて、何かを始めると思います。
こう言うと「ひとり戦略」と矛盾しているように思えるかもしれないですけれど、そうではないんですよ。自分で何かを始めるのは「ひとり」に自信があるからできることなんです。「ひとり」に自信がない人は、優秀な人を集めて育てようとは思わないので。
だから、これから一人で何かを始めようと考えている人は、まずは「ひとり戦略」で揺るぎない自信が持てる自分をつくっていくことが大事なんです。
――最後に、「ひとり」でいることや「ひとり」で何かをはじめることに不安を感じている方々にメッセージをお願いします。
金川:私の場合は、大学受験も公認会計士試験も起業も、「こうならなかったら終わりだ」と思ってやっていて、なりたい気持ちというものは弱くなかったと思うんです。
「ひとり」を不安に思うのであれば、「こうなりたい」とか「こうしたい、したくない」といったことを、もっと明確にして、もっと気持ちを高めていくことが必要だと思います。
やっぱり、理由や根拠が明確でないとやる気は起きないですよね。何のためにやるのか、それを手に入れてどうなりたいのか、ということを考えたり、色々な人に会ったり話したりしてから始めるのがいいと思います。
ただ単に「頭がよくなりたい」から勉強する、ただ単に「英語が上手くなりたい」から英会話スクールに行く、みたいな感じだと続かないので、「なぜそうしたいのか」をつきつめて考えるという部分が大事なのかなと。
理由や根拠というのは何でもいんですよ。ただ「何があっても絶対に海外に住みたいから英語を身につけるんだ」というくらいの強い気持ちがないと、なかなか動けないと思います。
だから「ひとり」で何かを始めようと思ったら、気持ちが高まって、覚悟が固まってから動き出すほうが、結局は近道になると思います。
(了)
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