「○○力」を伸ばす、というタイトルの本は実に多い。本書『人生を変える「質問力」の教え』(WAVE出版)もその種の啓蒙書かと思って読んだら、かなり違っていた。ビジネス書にして物語というユニークなつくりの本だった。
著者の谷原誠さんは1994年に弁護士登録した弁護士。テレビのニュース番組の解説にも登場する。
物語の主人公、神澤健吾も新人弁護士という設定だ。雇ってくれる法律事務所はなく、自宅で開業しているが、依頼はほとんどなく、コンビニのアルバイトで生計を立てている。成功した大物弁護士と知り合い、スポーツジムのオーナーであり、「質問力」を鍛えるメンターでもあるタカさんを紹介してもらう。「本気で変わりたい」という健吾に筋トレと質問力レッスンがスタートする。
二人のやりとりの中で質問が持つ4つの力が明らかになる。
1 質問は思考を発生させる 2 質問は思考の方向を限定する 3 質問は答えを強制する 4 質問に対する答えは相手を縛る
つまり、質問で相手の思考や行動をコントロールしたりすることができるのだ。同様に自分に対する質問をコントロールすることで、自分の思考をコントロールすることもできる。こうして健吾は「夢実現へのロードマップ」を完成させる。
この後、思いのままに相手から情報を得るために、やってはいけないことや好意を得られるテクニックを学び、しだいに成長し、仕事も増えてゆく。
後半は、解雇や離婚、交通事故裁判など具体的な事例をどう解決してゆくかというストーリーに沿って、「返報性の法則」、「社会的証明の法則」、「一貫性の法則」などを解説している。
その中の「ポジティブクエスチョン」というテクニックを読み、まったく別の人物を連想してしまった。2019年8月8日からネットフリックスで世界190カ国に配信され、いま話題になっている『全裸監督』の主人公、村西とおるさんのことである。
アダルト業界に参入する前、村西さんは北海道で英語教材のセールスマンをしていた。まったく契約が取れず、クビ寸前だった村西さんに先輩が忠告をした。「とにかく相手をほめまくれ」。人を賞賛して好意を得て、話を引き出しやすくするテクニックは本書にも出てくる。
村西さんはセールス先で、「買えない」「出来ない」理由を言われても、ことごとくはね返す「応酬話法」を身に着け、全国一のトップセールスに登りつめる。
「英語を身につけたら幸せになると思いませんか?」という質問で契約を取る場面があった。これも本書で言う「ポジティブクエスチョン」だろう。村西さんも「質問力」で人生を切り拓いた人と言えるだろう。
この例に限らず、本書で紹介されている、さまざまなテクニックはどこかで聞いたことがあるが、それらを「質問力」という新たな概念のもとに再編成したところが、本書の特徴だろう。
確かに弁護士は質問という形で仕事を進める。著者が弁護士であるということで本書に説得力があるように感じた。
弁護士人口は1997年の1万5866人から、2016年には3万7680人に増え、弁護士間の格差は広がっている。だから新人弁護士がコンビニでバイトをしているという本書の設定も意外ではなかった。
本欄では、『弁護士の格差』(朝日新聞出版)を紹介済みだ。
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