何でも「格差」の時代だ。あらゆる事柄を「格差」の物差しで分析する。本書『弁護士の格差』(朝日新聞出版)もそうした「格差本」の一冊だ。
帯が強烈だ。「弁護士の5割が400万円以下」だという。収入ではなく、小さく「所得」と記されているところはご愛嬌だろうか。何かと節税につとめて「所得」が少なめということに違いないが、それにしても社会的地位の高さに比して低いことは否めない。
弁護士という職種がちょっとした構造不況業種になりつつある。その元凶は「司法試験改革」だ。戦後長らく司法試験の合格者は年間500人程度だったが、1990年代後半から徐々に増やされた。そして新司法試験制度で2006年に1期生が誕生、年間2000人前後に膨れ上がった。
かつて司法試験と言えば、現役で合格するのは至難のワザ。国立難関大出身者でも留年覚悟、浪人するのが当たり前という世界だった。東大法学部出身で、弁護士資格を持つ政治家を見ても、何年もかかっている人が目立つ。
本書によれば弁護士人口は1997年の1万5866人から、2016年には3万7680人に増えた。ざっと2.3倍。ところが地方裁判所における民事事件の新規受任数は05年が約13万件が、15年は約14万件にとどまっている。刑法犯の認知件数も、10年ほど前は年間300万件を超えていたが、最近は100万程度に激減している。すなわち限りあるパイを多くの弁護士で奪い合っているというのが現実だ。本書によれば「供給過多」なのだ。
そこで新興の弁護士事務所などは、2000年から解禁された「広告」に力を入れる。あるいはテレビで名を売る弁護士も。都内の新興事務所は「業界のオキテ破り」と言われるほど宣伝コストをかけたが、内容に問題があるということで、広告の景品表示法違反に問われ、東京弁護士会によって2か月の業務停止処分を受けた。
一口に弁護士と言ってもピンからキリまで。「勝ち組」と「負け組」がいる。どの層にスポットを当てるかで、様相は違ってくるだろう。いずれにしろ、海外留学でスキルを上げ、有名な渉外弁護士事務所などに就職して巨大企業をクライアントに国際交渉などで活躍できるのはほんの一握り。増えすぎた弁護士、特に若手は苦労せざるを得ない。本書によれば、2038年には弁護士は約5万8千人にまで膨れ上がるという。
著者の秋山謙一郎さんはフリージャーナリスト。本書の取材では88人の弁護士に会ったというだけあって内容は多岐にわたっている。そのうちの2人からは、「1時間お話しをしたのだから取材謝礼」を要求された。30代の若手と、弁護士1年目の人だった。旧日弁連報酬基準にのっとって、それぞれ1万円を払ったというが、ちょっと切ない。
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