がんになったことを告知する有名人が増えている。評者の周囲でもがんの手術を受け、その後普通の生活を送っている人は少なくない。しかし、がんになったらどうしようという不安はぬぐえない。そんな人に勧めたいのが、本書『がんと共に生き、考え、働く』(方丈社)だ。
著者の石川邦子さんは、キャリアコンサルタント。2016年12月、58歳の時に血液のがんである「多発性骨髄腫」と診断された。従来平均3年と言われた生存期間も10年程度までに治療成績も向上、がんとつきあいながら働いていこうと決意した。
がんの闘病記の本は多いが、キャリアコンサルタントの立場から治療と仕事を両立するための知恵が詰まった一冊だ。
がん医療(放射線療法、化学療法、手術療法)の進歩はめざましく、すべてのがんの5年相対生存率は2006-2008年のデータで62.1%まで上昇している(国立がん研究センターがん対策情報センター調べ)。
石川さんも仕事を辞めるという発想はまったくなく、治療と仕事の両立をまず考えたという。がんと告知されて真っ先に行ったのは、治療が良い方向に向かうように「免疫力を上げる=ストレスを減らす」ことだった。具体的には次の3点だ。
1 経済的な見通しを確認する 保険の入院給付金、通院給付金などを確認し、不安を軽減。 2 病気を正しく理解する 治療法の選択肢を主治医に相談する。 3 病気や治療に関する情報を収集する 国立がん研究センターが多くの情報を発信している。
ストレスを軽減するために、「自分が楽になる捉え方をする」ことを勧めている。石川さんの場合、いい先生との出会いで早期に発見できたこと、たまたま入院した病院が多発性骨髄腫の専門病院だったこと、新薬が続々と開発され治療の選択肢が広がっていたこと、がん保険に入っていたので経済的な不安がなかったことなどをラッキー要因と捉え、「自分は運がよいのだ」とポジティブに思考することができたそうだ。こうして「いいこと探し」をして書き出し、可視化することで客観的に自分の状況を理解できる、と勧める。
さらに、「ストレスや逆境に直面した時、それに対応し、克服していく能力」を意味するレジリエンスを高めるには5つのポイントがあるという。
・今の自分を認める自尊感情、自己肯定感を持っている。 ・物事に一喜一憂しないで感情をコントロールすることができる。 ・楽観性を持って状況に対応していける。 ・サポートしてもらえる人間関係がある。 ・直面する課題に対してきっとやれると思える自己効力感を持つ。
石川さんは多くの相談者と向き合う経験の中で、レジリエンスを高めてきたが、自分のできることや強みを意識すれば誰でもレジリエンスを高めることは可能だという。
こうしたメンタル面だけでなく、本書にはがん治療の基礎知識、入院中のすごし方、副作用とセルフケアなど役に立つ情報が多い。とりわけ、有益と思ったのは、第6章「がん治療にかかるお金の話」だ。
「病院に払う医療費」、「病院に払う保険適用外のお金」、「病院以外に払うお金」の3つのお金がかかること、治療費を支援する制度、がん保険について説明している。
がんになったショックで後先を考えずに退職してしまう「びっくり退職」をする人が、約2割もいることを紹介し、あわてて職をなくしてしまわないよう呼び掛けている。
本書を読んで、元気になる人も多いだろう。石川さんも回復したからこそ、本書を出したとばかり思っていた。しかし、「あとがき」でいわゆる再発の状態になり、本格的な治療をしなければならなくなった、と明かしている。その上で、「治療は長期戦です。仕事を辞めなくてもいい環境づくりのお手伝いをしていきたいと考えています」と結んでいる。石川さんが仕事に復帰することをお祈りしたい。
本欄では、がんの専門医が書いた『がんと向き合い生きていく』(セブン&アイ出版)、作家の佐藤優さんががんになった友人のことを書いた『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』(講談社)を紹介済みだ。
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