読むべき本、見逃していない?

東大生には「本当の教養」が欠けている!

  • 書名 東大教授が考えるあたらしい教養
  • 監修・編集・著者名藤垣 裕子、柳川 範之 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2019年5月30日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書判・169ページ
  • ISBN9784344985612

 当然ながら東大の生協書籍部では売れている。『東大教授が考えるあたらしい教養』 (幻冬舎新書)。タイトルから考えると、何か難しいことが書かれているのではないかと思われそうだが、そんなことはない。活字も大きく、短時間で読めてしまう。この本を必ず読め、などという必読本リストは掲載されていない。もっと根本的なレベルで「教養」を問い直している。

異色の経歴も

 本書はともに東大教授の藤垣裕子さんと柳川範之さんの共著だ。二人が議論する中で生まれた本だという。出版元は岩波でも東大出版会でも有斐閣でもなく、ベストセラーが多い幻冬舎ということもあり、一般向けの本だ。

 藤垣さんは1962年生まれ。東大卒で大学院総合文化研究科・教養学部の教授。著書に『専門知と公共性 科学技術社会論の構築へ向けて』(東京大学出版会)、『科学者の社会的責任』(岩波書店)などがある。

 柳川さんは63年生まれ。大学院経済学研究科・経済学部教授だが、経歴がちょっと変わっている。中学卒業後、父の海外転勤に伴いブラジルへ。高校には行かずに独学生活を送る。大検を受け、慶応大学の通信課程に入り、シンガポールで通信教育を受けながら独学を続け、その後、東大大学院の博士課程を修了している。著書『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞社)で日経・経済図書文化賞を受賞している。

 オーソドックスにエリートコースを歩んだ藤垣さんと、かなりイレギュラーなコースから東大で教えるまでになった柳川さん。その組み合わせが異色だ。

「正解がない」問題

 教養とは何か、新しい教養とはどういうものか。それが本書の主題であり、一応、型通りの説明がある。「教養=知識量」という伝統的な考え方はもう通用しない。ネットで検索すればあらゆる情報が瞬時に手に入る今、知識量の重要性は相対的に低くなっている、ということを強調する。

 その中で印象に残ったのは、「日本とイギリスの試験問題はこんなに違う」という話だ。例えば日本では放射線について、「ラジウムの半減期は1600年です。今、1グラムのラジウムが0.25グラムになるには何年かかりますか」といった問題が試験で出る。ところがイギリスの一般学生向けの試験問題は色合いが異なる。「あなたがロンドンからシドニーに行く間に浴びる放射線量はどれくらいですか」。こちらは自分の健康にも関わりの深い問題になっており、極めてリアルだ。

 フランスでは大学入学資格を得るためにバカロレアという選抜試験を受ける必要がある。そこでは「理性と情熱は共存するか」などという問題が出るそうだ。日本でも「論述問題」が大学入試に出ることがあるが、「模範解答にできるだけ近い小論文」が求められる。バカロレアのような「正解がない」問題ではない。

 本書は上記の例を引きながら、「つねに『正解探し』をするスタンスから脱することができなければ、知識を動員し、他者と議論しながら社会課題の解決を目指すという『教養』はおそらく身につかないでしょう」とクギを刺す。そしてさらに、「教養とは、正解のない問いについて考え、『ただ一つの正解』探しをするのではなく、他者と知恵を集結しながらよりよい解、つまり思考の枠組みを駆使した新たな物差しを模索し続けることだともいえるからです」と念を押している。

クイズ王に教養はあるか

 柳川さんは授業で、参考文献を紹介したりする際に、ちょっとでもタイトルが違っているとすぐに学生に指摘される、という経験を書いている。テレビで東大生らを集めたクイズ番組が盛んだが、なんだか似ているなと思った。「クイズ王」とは、既存知識の百科事典的な暗記王である場合が少なくない。「傾向と対策」にもとづいた訓練をすれば「脊髄反射」で答えられるようになるだろう。そうした些末な知識の集積と、「教養」とは別問題ということを、何となく柳川さんが指摘している気がした。

 そういえば評者の高校時代、数Ⅲの中間試験で「積分の奇問」が出たことがあった。「大学への数学」で全国ヒトケタ台の数学の異才も含めて理系志望の生徒たちは必死でそれらしい解答を提出したのだが、全校で「正解者」はたった一人。「この問題は設問に誤りがあるので解けない」ことを指摘した文系の、受験で数Ⅲが不要な生徒だった。教師はわざと、解けない「クセ球」を投げていたのだ。

 この教師は山登りの専門家で単独行の登山も多い人だった。手引きにした「コース図」が間違っていて、山中で大変な状況になったこともあったにちがいない。あるいは予想もしない「未知の事態」にあわてたこともあったことだろう。高校を卒業してからすでに相当の時間がたつが、今も思い出すのはあの問題と、それを試験に出した教師のことだ。なにしろ実社会では、前例のない、解けない問題に出くわして四苦八苦することがよくあるからだ。

 本書は4章仕立て。第2章では具体的に「東大で教えている教養」について説明されている。「東大ではリベラルアーツを学ぶ」「自分で考え、アウトプットすることを重視」など授業でいろいろ工夫している様子がわかる。とりわけ「原発事故で露呈した『日本の無教養』」では、過去の学問や教育の問題点が鋭く指摘されている。他大学の学生や教員にも参考になりそうだ。

 BOOKウォッチでは関連で、『東大生の本の「使い方」』(三笠書房)、『東大を出たあの子は幸せになったのか』(大和書房)、『ルポ東大女子 』(幻冬舎新書)、『東大駒場全共闘 エリートたちの回転木馬』(白順社)、『海外で研究者になる』(中公新書)、『京大的アホがなぜ必要か』(集英社新書)なども紹介している。

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