読むべき本、見逃していない?

「東大男子」が読んでも参考になる

ルポ東大女子

 東大、というと高校時代のクラスメートを思い出す。早くから受験科目を東大向けに絞り込み、無関係の科目の授業はいつも「内職」、修学旅行にも行かなかった。文化祭でクラスが演劇をすることになり、クラスルームで彼にも役が振られたが、「俺はやらない」と出演拒否。「君たち凡才は秀才の大変さが分かってない!」とまくしたて、皆がしらけた。

 もちろんこれはきわめて例外的なケースだろうが、本書『ルポ東大女子 』(幻冬舎新書)』を眺めているうちに彼のことを思い出した。無事に現役合格してどうなったか、その後の消息は知らない。

「女の子なんだから、慶應に行ったら?」

 本書の著者、おおたとしまささんは麻布高校から東京外大を中退し、上智大卒。リクルートを経て、育児・教育ジャーナリストとして活躍する。『ルポ 塾歴社会』など多数の著書がある。東大卒ではないが、東大に近いところにいる関係者だから、東大事情には詳しい。

 ルポ、と銘打たれていることからも分かるように、実名や匿名で多数の関係者が発言している。長年の教育関係の取材が生きている。

 最近よくテレビで見かける山口真由さんも登場する。1983年生まれ、東大法学部在学中に司法試験と国家公務員試験Ⅰ種に合格した。オール「優」で首席卒業、財務省に就職し、のちに弁護士に転身している。「生涯神童」といえるだろう。

 山口さんが受験の時、「東大を受ける」と母親に言ったら、「あなたは女の子なんだから、東大ではなく慶應に行ったら?」といわれたそうだ。当時はそれを冗談として聞き流したが、今となっては母親の意図が分かる気がすると述懐する。

 「男子であれば、労働市場で自分の価値を高めることが、結婚市場における自分の高めることにもつながります。しかし、女子の場合は、必ずしもそうではない...むしろ下がってしまうことすらあるのです」。山口さんのような美人でも、そんなふうに思うことがある、というから深刻だ。

「キミ、ひょっとして東大か?」

 やはり法学部を出て都銀に勤め、退職して起業した女性は語る。

 「東大女子って、これまで自分で努力さえすればすべてがコントローラブルなルールの中で生きてきたんだと思う。でも大学を出るとまた別のフェーズが待っていて・・・制度上は公平でも、女性には不利なことがまだいっぱいある」

 先の山口さんは「女子」に限らず、「東大生」全体にについても、クールに分析している。

 「東大の卒業生は、二十代前半までずっと勝ち続けています。だから、評価されなかった時、自分を立て直す術を持っていません。自分を立て直す必要のないキャリアを歩いてきたからです」

 たしかに、民間企業では、世間で思われているほど「出身大学」は重視されない。最近も、日経新聞の元剛腕記者が書いた本のなかで、機転が利かず仕事がモタモタしている記者に対し、上司が「キミ、ひょっとして東大か?」と問い詰める話が出ていた。官僚社会でのみ特殊に「東大卒」が幅を利かすが、省庁間の格差もある。頂点とされる財務省に入っても、局長までなれるのは同期の中の一部にすぎない。昨今のように、国会で弁明に追われる姿を見ていると、辛い。

 東大生といっても一学年で約3000人もいる。女子も約600人。本当の「神童」はわずかだろう。社会に出て、ブランドと実力、評価のギャップに悩む人も少なくないはずだ。というわけで、本書は「女子」に限らず「男子」が読んでも含蓄がある。

 私事で恐縮だが、評者はかつて、多数の東大、旧帝大、早慶上智ICUの女子が混在する職場で働いていたことがある。仕事ぶりや人間力で多少の個人差、力量差はあったが、それは「出身大学」による違いではなかった。そのころ東大女子から聞いた忘れない言葉を紹介しておこう。「東大の女の子の9割は、勉強してないと不安になる子たちなんです」。

  • 書名 ルポ東大女子
  • 監修・編集・著者名おおたとしまさ 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2018年3月29日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書・211ページ
  • ISBN9784344984905

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