メモの本が売れている。前田裕二さんの『メモの魔力』(幻冬舎)が昨年(2018年)からベストセラーになっている。記録としてのメモから「知的生産のためのメモ」「アイデアを生むためのメモ」へという発想の転換がヒットの要因のようだ。もちろん、前田さんがSHOWROOM代表取締役社長という成功者であることも支持を広げている訳だが。
本書『人生を変える記録の力』(実務教育出版)の著者は、企業のビジネスアドバイザーやプロダクト開発などでも活躍するメンタリストDaiGoさん。記録術は、やりたいことを見つける、モチベーションを上げる、ストレスに強くなるなど、人生のあまねく悩みに効く万能ツールだという。本書では、心理療法などで効果があると認められた記録術を11章に分けて33種類、紹介している。
たとえば、やりたいことを見つけるには「行動ダイアリー」を勧めている。まず、その日の行動を1時間単位で記録する。次にその行動に対して感じた「達成感」と「喜び」のレベルを10点満点で採点する。ある程度、記録がたまったら定期的に記録を眺めると、自分の傾向がわかる。
「達成感」と「喜び」のバランスをとることで幸福の総量は上がる、と説明する。認知行動療法の父、アーロン・ベックが1970年代に考案したテクニックだそうだ。
大事なことから逃げたくなった時の解決法がTRAP(トラップ)・TRAC(トラック)法だ。つい逃げたくなってしまうタスクに立ち向かえるメンタルを育む効果があるという。
まず、TRAP。トリガーの欄に後回しにしているタスクを記入する。レスポンスの欄にどんな思考や感情がわきあがるかを記入する。回避パターンの欄には、その時どのような問題行動を取ってしまうかを書き込む。さらにそれによって短期的、長期的に起こる影響を記入する。
TRACで問題の解決を図る。トリガーとレスポンスの欄はTRAPと同じ。代理コーピングという欄には回避パターンから抜け出すために、代わりにできそうな行動をリストアップする。思いつかない時は、長期的により良い結果を出すためにはどうすればいいだろうか、を考えてみる。
この方法のポイントは問題の分析を短期と長期に分けていることだ。大事なことから逃げがちな人は考え方が短期的になる傾向がある。そのことに気づかせてくれるという。
心理対比セッティング、筆記開示、クイック・ウィン分析、葛藤マネジメント、責任パイチャート、行動実験、回避ヒエラルキー、エクスポージャー練習フォーム、スクリプト再生法、行動プライオリティベクトル、思考裁判記録法、ストレス日記、自動思考キャッチシート......。
本書で紹介されている記録術の一部だ。何が何やらわからないが、なんとなく雰囲気は伝わるだろう。心理療法などの世界で広く使われているテクニックだそうだ。巻末には欧米の参考文献も挙げられている。
DaiGoさんは、年に12冊以上の本をコンスタントに出版できるのも、ふだんから膨大な記録をため込んでいるからこそ、と書いている。
評者はこの手の「ライフハック」の本を読むのが好きで、かなり以前からさまざま読んできた。そこで感じた疑問は、それらの著者が本に書いてある方法を実践すれば、それなりに成功しているはずなのに、なんかいまいちな人が多いことだった。
覚えている限り、ほとんど唯一の例外は日本の長者番付にも入り、現在GMOインターネットの代表取締役会長兼社長でグループを率いる熊谷正寿氏だろう。2004年にかんき出版刊行の『一冊の手帳で夢は必ずかなう なりたい自分になるシンプルな方法』は、まだ会社が小さい頃に書かれたものだが、その手帳活用術に驚いた。その後夢をかなえ、グループは成長を続け、見事に成功された。同書は今も売れているようだ。
最近は、冒頭にふれた前田裕二さんや本書のDaiGoさんのように、ある程度成功を収めた人に書いてもらうのが「ライフハック」本の主流になってきた。説得力もあるし。
無名の人でも書けたのは、新しいガジェットを使う「ライフハック」が関心を集めた時代だったからだろう。究極のガジェットとも言えるスマホの登場により、そうした「道具系」が廃り、愚直に「書く」ことが見直されたということかもしれない。
BOOKウォッチでは、知的生産術や手帳関連で、『調べる技術 書く技術』(SB新書)、『書くだけで夢がかなう 手帳&ノート術』(発行 日経BP社/発売 日経BPマーケティング)を紹介している。
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