2023年10月13日、批評家・東浩紀さんの新著『訂正する力』(朝日新聞出版)が発売された。
この夏に刊行された東さんデビュー30周年の集大成『訂正可能性の哲学』(ゲンロン)は、発売後すぐに重版が決まり、いくつかの書店ランキングでも1位を飾った。
本書は、そこで提示された「訂正可能性」という考え方について、ふだん哲学に馴染みのない読者にも分かりやすく、話題のニュースや日常生活の延長にあるエピソードを交えながら解説する実践&応用編となっている。
その第1章では、哲学の魅力を支える「時事」「理論」「実存」の3つの視点のうち、保守とリベラルの問題、コロナや東京オリンピック、キャンセルカルチャーや論破力といった、「時事」に関するトピックがふんだんにちりばめられている。
たとえば、「訂正する力」を失っている典型例として、東京都知事として五輪を招致し、多くの批判に晒された作家の猪瀬直樹さんが例に挙げられている。五輪では、競技に適さない東京の暑さや、想定の2倍もかさんでしまった経費が問題になったが、猪瀬さんは「東京の夏は五輪に適している」「コンパクト五輪のはずだった」と、最後まで自分の主張を訂正することがなかったという。
しかし、その猪瀬さんは、代表作『昭和16年夏の敗戦』で、太平洋戦争開戦前、日本政府が戦争の結果をひそかにシミュレートして、「日本必敗」という答えが出たにもかかわらず、方針を訂正できず、戦争に突入してしまった顛末を描いたことで知られている。
なぜ、訂正できない日本を批判していたはずの猪瀬さんが、批判していた側と同じような過ちを犯してしまったのか。東さんはその原因を、いまの日本にはびこる「訂正できない土壌」に見出し、その現状を変えるために必要な哲学的な議論を展開している。
「日本には、まさにこの変化=訂正を嫌う文化があります。政治家は謝りません。官僚もまちがいを認めません。いちど決めた計画は変更しません。(...)とくにネットではこの傾向が顕著です。かつての自分の意見とわずかでも異なる意見を述べると、『以前の発言と矛盾する』と指摘され、集中砲火を浴びて炎上する。そういう事件が日常的に起きています。(...)そのような状況を根底から変える必要があります。そのための第一歩として必要なのが、まちがいを認めて改めるという『訂正する力』を取り戻すことです」
(「はじめに」より)
ウィトゲンシュタイン、憲法改正から、ChatGPT、ロボットアニメまでを一つのキーワードで貫く、日本を代表する思想家が語り下ろした最前線の哲学的エッセイ。いまの日本に必要な内容がつまった1冊だ。
【目次】
第1章 なぜ「訂正する力」は必要か
第2章 「じつは......だった」のダイナミズム
第3章 親密な公共圏をつくる
第4章 「喧騒のある国」を取り戻す
■東浩紀さんプロフィール
あずま・ひろき/1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。専門は哲学、表象文化論、情報社会論。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞 思想・歴史部門)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)、『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン、第71回毎日出版文化賞 人文・社会部門)、『ゆるく考える』(河出書房新社)、『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)ほか多数。
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