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「ジャニーさんはかわいそう」ジャニーズ性加害を告発したカウアン・オカモトは何者なのか

Hariki

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ユー。

 故・ジャニー喜多川氏から性加害を受けたことを顔出し・実名で告発し話題となった、元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさん。2023年8月9日に発売された自伝『ユー。 ジャニーズの性加害を告発して』(文藝春秋)で、ジャニーズJr.としてジャニー氏のそばで過ごした日々と、告発に至った経緯を語っている。ジャニー氏の素顔、そして時の人となったオカモトさんの人物像とは。

『ユー。 ジャニーズの性加害を告発して』カウアン・オカモト 著(文藝春秋)
『ユー。 ジャニーズの性加害を告発して』カウアン・オカモト 著(文藝春秋)

「ユーはセンターじゃなきゃいらないよ」

 オカモトさんは1996年5月24日、愛知県豊橋市生まれ。両親は日系ブラジル人で、工場近くのブラジリアンタウンで育った。学校では日本人の同級生になじめず、不良グループに入りかけたことも。中学3年生の時、ジャスティン・ビーバーに憧れてモデル業を始め、歌っている姿を撮ったDVDを元男闘呼組の岡本健一さんの知り合いに渡したところ、健一さんからジャニー氏の手に渡り、いきなり電話がかかってきてジャニーズに誘われたのだという。2012年2月のことだ。

 しばらく実家から通っていたが、2014年春に上京。ジャニーズの仕事だけでは家賃と生活費を賄えないので、コンビニや引っ越し業者などのアルバイトを並行していた。コンビニで働く姿をファンが盗撮した写真が、今でもネット上に残っている。

 ジャニーズJr.のほとんどはオーディションを受けて入ってくる。一番のエリートはスカウトだが、オカモトさんの場合はスカウトに次ぐエリート入所と言えるだろう。日本人離れした外見や度胸も、まさにジャニー氏に気に入られそうな要素だ。

 一方で、グループを組ませてデビューさせることが大前提にあるジャニーズでは、オカモトさんのような独立心の強いタイプは扱いづらかったようだ。ジャニー氏にこんな言葉をかけられたと書かれている。

「ユーは黒色だよ。どんな色にも染まらないけど、ほかの色を濁らせる。だからユーは、センターじゃなきゃいらないよ」

 この言葉を受けて、センターにふさわしいアイドルを目指すべくダンスの特訓に励んだという。しかし、同時期に愛知県から入所してスターダムを駆け上がった元King & Princeの平野紫耀さんとは対照的に、オカモトさんが固定のグループに所属することはなかった。

全部で15~20回も...

 性加害の現場となったのは、ジャニー氏の自宅である青山のタワーマンションの最上階だった。いつもJr.たちが泊まりに来ていたという。オカモトさんは、2012年に初めて豊橋から呼び出された日もそこに泊まったが、その日は一晩中母親と電話していたため何事もなかった。しかし、一緒に泊まっていたJr.たちの不穏な雰囲気から「何かある」と察し、自分で検索して、性加害の噂にはたどり着いていたそうだ。

 初めて被害に遭ったのは、Jr.になった翌月のことだった。夜、部屋の見回りを終えたジャニー氏がベッドに入ってくる。足のマッサージに始まり、だんだんと手が上に伸びてきて、パンツを脱がされ......最後までオカモトさんは寝たふりを続けたという。それから2014年にかけて、同様のことが15~20回あったそうだ。

 本書には、「それでも僕は、ジャニーさんに感謝している」と書かれている。育ててもらったという恩もあり、単純に憎みきれるものではないようだ。また、ジャニー氏を「かわいそう」だと思っていたという記述も興味深い。

ジャニーさんは、コンプレックスの塊なんじゃないだろうか。(中略)ゲイで子供が好きだという絶対的な秘密を抱えて、背もかなり低い。(中略)行為をしたジュニアにお金を渡したのも、自分に自信がなくて、相手に対して申し訳ない気持ちがあったからじゃないだろうか。

 ジャニー氏は行為の翌朝、1万円をくれたという。普段お小遣いを渡すのと同じように「ユー、持っときなよ」と手渡されたそうだ。

ジャニーさんが決められるのは一割程度

 評者が個人的に、性加害と同じくらい重く捉えたのが、Jr.の仕事の割り振り方だ。主にジャニーズJr.が出演しているNHKの番組「少年倶楽部」の撮影で、こんなことがあったという。

 直前に、コーナー2つほどに追加で出てほしいと女性の番組スタッフから伝えられた。オカモトさんは振付を覚える時間がなくなってしまうのでどうしたらいいかと尋ねると、そのスタッフは「聞いてくるね」と席を外した。その後、Jr.の名物振付師・サンチェ氏が叱りに来て、コーナーの出演がなくなったどころか、その後1年、「少年倶楽部」に出られなくなったそうだ。

 サンチェ氏が言うには、女性スタッフは「山P(山下智久さん)を売った人」。ここでコーナーに出ていれば、以降も優先して出演させてもらえたかもしれなかった。ちなみに、Jr.のダンスの立ち位置などの決定権はサンチェ氏にある。振付師だから当然だが、その立ち位置がそのまま"売れる"かどうかに影響してくる。まだ10代の少年たちが、力のある大人の顔色をうかがって、何でも「やります!」と必死に自分をアピールしなければならなかったのだ。

 また、岡本さんがソロデビューしてYouTubeを始めたいと相談した時は、ジャニー氏は乗り気だったものの、事務所に却下されてしまったという。かつては独裁状態だったジャニー氏も、老齢となってからは事務所の雰囲気や決まり事に口出しができなかったようだ。

ジャニーさんの考えで決められるのは一割程度だったと思う。残り九割を占める事務所全体の動きで、所属タレントたちは自分の立ち位置が決まっていく。結局、仕事は事務所の気分次第。そんなところもあった。

 元King & Princeの平野さん・神宮寺勇太さん・岸優太さんの脱退も、海外進出を望んだものの叶わなかったことが原因の一つになったと言われている。実は、岡本さんが告発に至ったきっかけが3人の脱退なのだそう。この告発を受けて事務所の体制が変わり、"ジャニーズ"が最盛期ほどの影響力を持てなくなっていく中で、こうした体質はこれからどれほど変化していくのだろうか。

■カウアン・オカモトさんプロフィール
1996年5月24日、愛知県豊橋市生まれ。両親は日系ブラジル人。2012年2月、ジャニーズ事務所入所。16年までジャニーズJr.として活動後、独立。「週刊文春」2023年4月13日号でジャニー喜多川氏から受けた性加害を実名告発し、大きな反響を呼んだ。


※画像提供:文藝春秋




 


  • 書名 ユー。
  • サブタイトルジャニーズの性加害を告発して
  • 監修・編集・著者名カウアン・オカモト 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2023年8月 9日
  • 定価1,650円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・208ページ
  • ISBN9784163917375

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