知的好奇心を満たしてくれたり、現実にはない世界へ連れて行ってくれたり、時には生き方の指針になったり、本はさまざまなことを教えてくれる。今回は、中でも「教科書にしたい!」と思った本をBOOKウォッチ編集部が厳選して紹介する。「なんで勉強しなくちゃならないの?」という子どもたちに出合ってほしい作品ばかりだ。
『数の悪魔』
ドイツの児童向け作品。数学嫌いの少年・ロバートが夢の中で数の悪魔に出会い、数の世界を旅して数学の魅力を教わる。素数などの基本から、フィボナッチ数やパスカルの三角形など高校・大学レベルの内容まで、子どもにもわかりやすく、楽しく解説している。私も小学生の頃から算数・数学に苦手意識を持っていたが、『数の悪魔』は大好きで繰り返し読んだ。これが小学校の教科書になれば、算数・数学嫌いの子どもはもっと減るだろうに......と思う。(Hariki)
『スウガクって、なんの役に立ちますか?』
文系出身の自分としては、この本のタイトルを何度口にしたかわからないほど、数学ができない言い訳として使ってきた言葉。大学のセンター試験でも「数I、数IIがなければ...」と悔しい想いをした経験も相まって、数学への拒絶反応がずっと残っていた。
大人になり、書店でふとこの本を見つけて読んでみた。すると学生時代に自分が抱えていたモヤモヤが晴れた気がした。そして今なら胸を張って言える。「数学は役に立つぞ」と。
本書では数学の知識が日常のあらゆる場面で活用できることを教えてくれる。ぜひ、算数・数学の教科書の冒頭に、この本の内容を載せてほしい。そうすれば、私のような被害者が少なくなるはずだ。(私の場合、単に苦手で勉強しなかっただけなんですが...)(Satoshi)
『解きたくなる数学』
数学が苦手なのは、問題の文章自体、何を言っているのかわからないから。そして、解かなくてはならないという義務的な気持ちにさせられるから。そんな課題を解決すべく、Eテレ「ピタゴラスイッチ」の企画・監修を手掛ける佐藤雅彦さんが、大学の研究室の仲間とともに考えた23問はどれも身近な題材でストーリーがあり、つい解きたくなってしまう。 論理の組み立てが学べて、思考のジャンプ力が身につく。たとえ正解にたどりつかなくても、考えること自体が楽しくなる一冊。(Mori)
紹介記事はこちら→「考える」を楽しむ。ピタゴラスイッチ制作陣による『解きたくなる数学』
『ちくまQブックス』
中高生向けノンフィクションシリーズ。科学、哲学、社会学から倫理、法律、処世術まで、あらゆる分野の身近な「なぜ?(Question)」について、専門家が水先案内人になり、読者と一緒に探究する(Quest)というコンセプトで、どれも薄くて気軽に読める。
「人体改造はどこまで許されるのか?」「音読み・訓読みはなぜ生まれたのか?」「世界一くさい食べものって?」など知的好奇心をくすぐるテーマに加え、執筆陣も多彩な顔触れで、これまでに20作が刊行されている。
最近、SFものにハマっている息子が書店で選んだのは哲学者・飯田隆さんの『不思議なテレポート・マシーンの話』。なるほどねと思っていたら、「これも」と何食わぬ顔で渡されたのが漫画家・田房永子さんの『なぜ親はうるさいのか』だった。フン、上等じゃないの。(Mori)
紹介記事はこちら→なぜ思い通りにならないの? 自分の「体」と向き合う、10代からの読書体験。
『英語独習法』
もはや英語の独習本は著者の数だけあるようなもので、評者の本棚にも何冊の類本が並んでは消えていったことか。しかし、本書はネット時代のいま、英語学習の新しいノウハウを具体的に教えてくれるだけでなく、多読や多聴は語彙力向上には向かないことなどを認知心理学の立場から教えてくれる。日本語と英語の違いを自分で探究する、という一見、遠回りのような方法が英語の達人になるという意味で、中学生のときにこれを読んでいたらなあ、と今も思う。(N.S.)
BOOKウォッチでは、今井さんの共著『言語の本質』も紹介している。
書評はこちら→『言語の起源はオノマトペだったのか 正統派に挑戦する仮説』
『なぜ僕らは働くのか 君が幸せになるために考えてほしい大切なこと』
新卒で入った会社の勤務初日、ここで何をするのか、イメージできなくて不安だったことを覚えている。そんな私が小中高生のときに読みたかった一冊。
「仕事って何だ?」に始まり、「好きを仕事に? 仕事を好きに?」「大人も知らない未来の"働く"」など、大人も気になる「働く」にまつわるあれこれが、マンガやイラストとともにびっしり書かれている。
たとえば、子どものころは知っている職業が少なく、漠然とめざすことしかできなかった。そこを「『好き』を活かせる仕事は1つだけではない」「『好き』のまわりにはいろいろな仕事がある」と深掘りして、あまり知る機会のない職業も紹介している。今の子どもたちには、こういう本を読んで、アンテナを張って、やりたいことを見つけていってほしい。(Yukako)
紹介記事はこちら→『なぜ僕らは働くのか』企画者が語る、「将来の夢なくていい」納得の理由とは
『宇宙兄弟』
幼い頃、宇宙へ憧れを抱き、ある約束を交わした兄・六太と弟・日々人。時は経ち2025年、そんな2人が宇宙をめざし、さまざまな試練を乗り越えていく物語。
実は、道徳の教科書にこの漫画の1コマ(1つの名言)が使用されたことはあるらしいが、『宇宙兄弟』ファンとしては、「1コマと言わず、この漫画全体を取り上げてほしい」と強く願う!
月や火星への移住計画や他の太陽系惑星の調査など、確実に人々の宇宙への温度感が高まっている中で、宇宙に関する詳細や宇宙飛行士の努力などを時に真剣に、時におもしろく、そして時に感動的に描いているこの漫画は、教科書に載っていてもおかしくない作品だと思う。(Satoshi)
『ハンチバック』
第169回芥川賞受賞作。重度障害者である著者が重度障害者の主人公の小説を書いたという点でも、テーマや文章表現の新鮮さという点でも、強烈に印象に残っている。
筋疾患先天性ミオパチーの著者にとって、たとえば紙の本を読むことは、他のどんな行為よりも背骨に負荷をかけるという。それを「私の身体は生きるために壊れてきた」というふうに書いている。
この本を読んで感じたのは、当事者の言葉は切実で、心にずっしりくるということ。当たり障りのない言葉で書かれたものの何倍もの力で読者に訴えかけてくる。思いのほか過激な描写もあるので教科書向きではないかもしれないが、読書バリアフリーなど、自分にはなかった視点を持つことができた。(Yukako)
書評はこちら→【芥川賞候補作】1行目から目が点に。「ハンチバックの怪物」の密かな夢
『差別はたいてい悪意のない人がする』
韓国で16万部を超えるベストセラーとなった、真の多様性と平等を考える思索エッセイ。LGBTQ、ダイバーシティなど、さまざまな言葉が当たり前になってきたが、それでも国籍・人種・思想・性別など、多くの差別が根深く残るこの時代だからこそ、これからを担う若年層に差別的思想を持つことの「バカらしさ」を、この本から感じて、学んでほしい。
私自身、気づかぬうちに差別的な目線を持っていたことを感じ、恥じ入り、見直そうと思えた作品。(Satoshi)
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
日本人の著者とアイルランド人の夫(大型ダンプ運転手)の一人息子が英国の「元・底辺中学校」に入学し、多様なバックグラウンドを持つ友人たちと過ごした最初の1年半を描いたノンフィクション。思春期の入り口で、差別、貧困、格差、ジェンダーの問題を日常的に目の当たりにしている息子がそれらをどう受け止め、対処しているのかを、母親の目線から、しかし一定の距離を置いて冷静に観察し、記述している。きれいごとではない「多様性」の在りようを突き付けられる。(Mori)
書評はこちら→英国の「元・底辺中学校」に一人息子が入ったら
『アラブが見た十字軍』
レバノン生まれの作家でジャーナリストが、西欧キリスト教世界の視点からは、エルサレムの奪還のための「聖戦」と位置付けられる十字軍が、「遠征」という「侵略」を受けたアラブ側からどう見えたのかを活写した著作。学校で教わった西欧中心史観に横たわる偏見と通念を引き剝がしてくれた本。
1986年に日本語訳の単行本が刊行されたときに話題になったが読む機会を逸し、2001年にちくま学芸文庫になったときに読んで、歴史を新鮮な目で再発見した気になった。今日の中東問題やイスラム問題を考えるうえでも、その視点は決して色褪せていない。むしろロシアによるウクライナ侵攻が続く現代にこそ、キリスト教が正義の名のもとに行う残虐さの根深さを知ることもできる。(N.S.)
『紙の動物園』(ケン・リュウ短編傑作集)
最近話題の現代中国のSFだが、表題作は翻訳ながら国語の教科書に載っていてもまったく違和感のない作品だと「ハヤカワ文庫版」を読んだ時に思ったのを思い出した。中国生まれの著者は、本作でヒューゴー賞、ネピュラ賞、世界幻想文学大賞という文学賞3冠に輝いた。
香港生まれの貧しい母親がアメリカに渡り、子どもに渡した折り紙の虎や水牛が生きているかのように動き出す世界と親子の関係を描く表題作のほかにも、中国の歴史や伝統とSFの世界を融合させた一連の作品は、言葉だけで紡ぎ出される新しい迷宮を体験させてくれる。(N.S.)
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