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こんな人に会いたい。物語の世界に引き込まれる、主人公が魅力的な本

こちらあみ子

 魅力的な主人公が出てくる物語に出合うとワクワクする。自分を重ねて共感したり、こんなふうになれたら、と憧れたり。今回は、「この主人公が好き!」をテーマにBOOKウォッチのメンバーが選んだ本を紹介しよう。

純粋でまっすぐ。でも...

『こちらあみ子』

今村夏子 著/筑摩書房
今村夏子 著/筑摩書房
 『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した今村夏子さんのデビュー作。あみ子は純粋でまっすぐだが、他人の気持ちがわからない。大好きなのり君にはけむたがられているけれど、あみ子はそれに気づいていない。母が流産した時、元気づけようと思ってやったあることが、母を深く傷つけてしまう。忘れていた子どもの頃の世界の見え方がよみがえる小説。映画化作品もおすすめ。(Hariki)


面白くてかわいくてほっとする

『きょうも厄日です1』

山本さほ 著/文藝春秋
山本さほ 著/文藝春秋

 なぜかトラブルを引き寄せてしまう山本さんの、とほほ...な日常を描いたコミックエッセイ。バイト先に現れた露出狂おじさんに説教される話、外を歩いていたらあるモノが口に入って悶絶した話......。自身に降りかかる厄災を、笑いに変換させるセンスがすごい。
 かれこれ4年以上、文春オンラインの連載もコミック(2023年8月現在、3巻まで刊行)も欠かさずチェックしている。人間の本性はピンチの時こそ出るものだが、山本さんのリアクションからは人柄のよさが感じられる。面白くてかわいくてほっとする、大好きな主人公。(Yukako)

書評はこちら→「毎日が落とし穴だらけ!」なのに笑えるコミックエッセイ。



心のもがきが自分と重なる

『三十の反撃』

ソン・ウォンピョン 著、矢島 暁子 訳/祥伝社
ソン・ウォンピョン 著、矢島 暁子 訳/祥伝社

 2022年本屋大賞翻訳小説部門第1位。1988年生まれのキム・ジヘは、非正規社員。「ジヘ」はその年に生まれた女の子に一番多い名前で、平凡な自分にはぴったりだと思っている。30歳にして人生を諦めかけていたが、ある人物と出会って共謀者になり、社会への小さな反撃に出ることに......。
 ジヘに反撃を持ちかけた人物の「確かなのは、何かが少しも変わらなかったとしたら、それは誰も行動しなかったということです」というセリフが刺さる。何もないところから自分なりの一歩を踏み出し、本当の自分に近づいていくジヘ。変わりたくてもがいている感じが自分と重なり、忘れられない主人公になった。(Yukako)

書評はこちら→傑作。見逃さないで。「本屋大賞」翻訳部門No.1作家の新刊



かっこいい女用心棒

『精霊の守り人』

上橋菜穂子 著/新潮社
上橋菜穂子 著/新潮社

 精霊の卵に宿られたことから命を狙われる皇子の護衛を任された女用心棒のバルサが、短槍とおのれの腕だけを頼りに皇子を守り、冒険の旅に出る。文化人類学者としても知られる上橋菜穂子さんの「守り人」シリーズは、番外編も含めてすべて読破した。
 ファンタジーだけれど登場人物の人間臭さにリアリティがあり、引き込まれる。なんといっても、バルサがかっこいい。幼いころに母を亡くし、父を殺され、養父のジグロとともに故郷から逃げる中で「強くなりたい」と願い、短槍使いになったバルサ。何度も修羅場をくぐり抜けてきた人が持つ強さと優しさ、運命に身を委ねない凛とした姿勢に憧れる。(Mori)


ルパン三世になりたかった

『真夜中のマーチ』

奥田英朗 著/集英社
奥田英朗 著/集英社

 真面目だがダメサラリーマンのミタゾウと、胡散臭いパーティー屋のヨコケンと謎の美女の3人が、10億円という大金を強奪しようと企む痛快クライムノベル。
 大人になってもこの手の泥棒劇に憧れる。決して現実的ではない(やる度胸もない)のだが、なぜか「自分だったらこうする」と考えてしまう。幼稚園の時、どうしてもルパン三世になりたくて、親に買ってもらった3メートルも飛ばないエアガンを持って泥棒ごっこをしたのも良い思い出。(Satoshi)


憧れのダークヒーロー

『野獣死すべし』

大藪春彦 著/光文社
大藪春彦 著/光文社

 少年時代に敗戦により満州から引き揚げたが、戦争によって心に傷を負い、自分以外何も信じることができない伊達。格好よく頭も切れるのだが、心は闇に包まれていた。大学生になった伊達は、完全犯罪を計画。仕事帰りの警官を殺害し、拳銃と警察手帳を強奪した。そこから鬱屈とした過去を振り払うかのように残虐非道な人生を歩んでいく。
 松田優作主演の同名映画を観てから、原作も気になって書籍を読んだのだが、映像作品と書籍では微妙に主人公の心理描写に違いがあり、一種のオマージュ作品とも取れる。 どちらにしても、こういう「ダークヒーロー」には憧れるし、内なる自分を開放できる人物には惚れ惚れしてしまう。もちろん、犯罪はダメですけどね。(Satoshi)


ヤンキーに惹かれる

『京四郎』

樋田和彦 作/秋田書店
樋田和彦 作/秋田書店

 1995~2000年に「週刊少年チャンピオン」で連載されていたヤンキー漫画で、佐倉京四郎と緑川誠という、喧嘩が強い長野県の高校生2人が主人公。『湘南爆走族』、『今日から俺は!!』、『東京卍リベンジャーズ』など、時代が変わっても、やはり男はヤンキーに弱い!
 喧嘩もしたことがないし、無免許でバイクに乗ったこともないし、ヤンキー女子と付き合ったこともない。ヤンキーなんて......と思いながらも、なぜだか憧れを抱いてしまう。 ちなみに、今年5月に「マンガクロス」にて、23年ぶりの続編となる『京四郎 少年ヤクザ編』の連載がスタートし、これまた胸アツ展開となっている。(Satoshi)


並外れた大酒のみにして武芸の達人

『酔いどれ小藤次』シリーズ

佐伯泰英 著/文藝春秋(画像は新シリーズ25巻)
佐伯泰英 著/文藝春秋(画像は新シリーズ25巻)

 赤目小藤次という見た目は五十がらみの風采のあがらない浪人を主人公とした活劇人情小説。旧シリーズ19巻、新シリーズ25巻が文庫書下ろしで最近完結した。自分が同じくらいの年代で読み始めたが、題名の由来である小藤次が並外れた大酒飲みであることに興味を持ったのがきっかけだった。一方で来島水軍流という武芸の達人である主人公が、旧主君の恥をそそぐために仇藩の大名行列の最中にシンボルである槍の穂先を切り取って奪う 第1巻『御鑓拝借』に始まり、その小藤次を狙う刺客との死闘が繰り広げられる。敵を倒した最後に「来島水軍流 流れ胴切り」とつぶやくシーンが目に焼き付いている。
 しがない包丁研ぎを生業とする小藤次の長屋が主な舞台。決闘で殺した相手の子、駿太郎を自分の子として育てはじめ、江戸一番の女流歌人りょうとの結婚もからむ。本人は出世も名誉も望んでいないのだが、なぜか将軍や老中に頼られ、騒動に巻き込まれていく。物語の進展とともに赤子だった駿太郎が剣士に成長し、小藤次も老いていく姿を追っているうちに文庫をすべて買っていた。(N.S.)






 


  • 書名 こちらあみ子
  • 監修・編集・著者名今村夏子 著
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2014年6月14日
  • 定価704 円 (税込)
  • 判型・ページ数文庫判・240ページ
  • ISBN9784480431820

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