天皇制や皇室のあり方について関心が高まるなか、興味深い1冊が出た。親子4代に渡って学習院出身の女性ジャーナリストが書いた『学習院女子と皇室』(新潮新書)である。学習院の出身者たちから上がっている「秋篠宮家はなぜ学習院を避けるのか」という疑問の声に応えて書かれた本である。挨拶は今なおいつも「ごきげんよう」だというお嬢様たち。学習院の歴史的経緯、独特の慣習、卒業生たちの文集や証言などから見えてきたものは――。
著者の藤澤志穂子さんは、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。学習院大学法学部卒。1992年産経新聞入社。米コロンビア・ビジネススクール客員研究員などを経て2019年退社。著書に『出世と肩書』など。
大学受験界では、「GMARCH」という略称が流通して久しい。学習院大学の「G」と、明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学を指す「MARCH」を一体化させたものだ。偏差値的に早稲田大学・慶応義塾大学に次ぐ、難関ないし中堅私大の中核をなす大学群を意味する。
そんな学習院大学だが、男子高等科、女子高等科からの内部進学率は低下の一途をたどっているという。それを象徴するのが、秋篠宮家による「学習院忌避」である。
戦後、「皇室の藩屛」とされた華族制度は廃止され、皇室と華族のためにつくられた宮内省所管の学習院は、いち私立学校として再スタートした。その学習院を皇室が忌避するという「逆説」がいま進行しているわけだ。
この疑問に答えるのに、藤澤さん以上の人はいないだろう。少し長くなるが、彼女の生い立ちを本書から引用してみよう。
「筆者は曾祖父から四代目を数える学習院の出身です。明治時代に生まれた曾祖父は軍人で、旧制学習院中等科を出て陸軍士官学校に進み、東京帝国大学を卒業して奉職。大正時代に生まれた祖母は女子学習院を卒業、都内の広大な屋敷で『乳母日傘』で大事に育てられ、お付きの人と人力車で学校に通っていた」
「母は戦後に学習院女子中・高等科を卒業。母方の親族のほとんどは学習院の出身者で、筆者も自然と進学することになりました」
産経新聞で経済記者などを務め、その後は広報やPR、リスクマネジメントなどメディア関係のコンサルティングに携わってきた。学習院の内部事情に詳しいジャーナリストだからこそ、書くことができた1冊である。
本書の構成は以下の通り。
第1章 昭和天皇と小室眞子さん 第2章 秋篠宮家はなぜ学習院を避けるのか――皇族の学園生活 第3章 天皇家を支えるための学校――学習院の歴史I 第4章 財政難を乗り越えて「普通の学校」へ――学習院の歴史II 第5章 「常磐会」会誌「ふかみどり」を読む――歴史の証言者 第6章 卒業生たちの"リアル女子部論"――肉声を聞く 第7章 「ノブレス・オブリージュ」の真髄
藤澤さんは2021年9月、秋篠宮眞子さま(当時)ご結婚に際してプレジデント・オンラインに「『やはり天皇家と秋篠宮家ではまったく違う』眞子さまの駆け落ち婚に学習院OGが抱く違和感」という記事を寄稿した。
すると、さまざまな世代の学習院関係者から「よくぞ書いてくれた」という声が数多く寄せられたという。だが、ほぼ全てが匿名だったそうだ。
したがって本書は、同窓会報「ふかみどり」「はなすみれ」など各種資料とOGへの取材をもとに書かれた「非公式版『学習院女子』物語」だとしているが、なかなかアクセスできない世界なので、興味深いエピソードに満ちている。
歴史的経緯については研究者の浅見雅男さんの『学習院』(文春新書、2015)に負うところが大きいようだが、明治時代の学習院と華族女学校、歌人の下田歌子がつくった「桃夭(とうよう)学校」(今の実践女子学園の原点)との関係をコンパクトに記述している。
学習院から女子が分離する形でスタートした華族女学校に「桃夭学校」から生徒が移籍、華族よりも桃夭学校出身の庶民派の生徒たちの方が多く、この流れが、現代の学習院女子部にも共通しているという指摘は、当事者ならではのものだろう。
OGの小島慶子さん(エッセイスト、タレント)、安藤和津さん(エッセイスト)、とよた真帆さん(女優、タレント)へのインタビューを読むと、ある共通した「色彩」を感じる。
「芯が強く、あるがままの自己を貫き通す個性派が多い」。それは眞子さんにも共通する属性だと藤澤さんは見ており、その筆頭は、故ジョン・レノンの妻でアーティストのオノ・ヨーコさんだという。
さて、冒頭の「秋篠宮家の学習院忌避」の真相については、実際に本書を読んでもらいたい。いくつかポイントを挙げている。
BOOKウォッチでは、さまざまな受験校、公立名門高にかんする本を取り上げてきたが、評者に関するかぎり、私立女子校は手つかずだった。「皇室」という最強のパワーワードを得て、「学習院女子」が初登場した。
弊社ジェイ・キャストは東京・四谷にあり、線路をはさんで立地する学習院初等科の児童を見かけることも多い(女子中等科・高等科は新宿区戸山にあり離れている)。彼女たちのバックグラウンドが少し見えたような気がする。
日本では受験的価値観ばかりが強調されるが、「階級=クラス」という日本離れしたものを唯一感じさせる学校のディテールが、あますところなく描かれた労作である。
「ノブレス・オブリージュ」(高い社会的地位には義務が伴うことを意味するフランス語)ということばも、ここではしっくりくる。
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