2023年7月21日、日本中世絵画史を専門とする山本聡美さんの著作『増補カラー版 九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術史』(KADOKAWA)が文庫化された。芸術選奨新人賞・角川財団学芸賞ダブル受賞作に補遺を付け、全作品をカラー掲載した決定版となっている。
今回はその中から、死体の腐敗を生々しく描く「九相図(くそうず)」が生まれた背景について紹介しよう。
本書によると、「九相図」はもともと、仏教美術の一種として生まれた。そして、その目的は、仏教の修行の一環である「観想」を助けることにあったという。
観想とは、身体を安静に保って心を落ちつけ思考を深める瞑想の一種であり、特定の対象に意識を集中し、その形象を通じて「物事の本質」を捉えることを目指すもの。たとえば、仏、菩薩や浄土などがその対象となるとされる。
壮麗な寺院や、仏像や、仏画といった仏教美術は、この観想を補完するための手段として存在していて、たとえば、念仏や奈良や鎌倉の大仏、宇治の平等院も、極仏、菩薩や浄土などを再現し、観想をサポートするものだったという。
観想すべき対象は、仏、菩薩や浄土など清浄なイメージだけではなく、死体などの不浄の様子を観想することもあったという。これは出家者が、自分自身や他者の肉体に対する執着を断ち切るためのもので、数多くの経典に説かれていた普遍的な修行だった。つまり九相図は、死体の不浄さを生々しく再現することで、生きることへの執着を断ち切るためのものだったのだ。
このほか本書では、数多くの名品九相図をカラー掲載。精気みなぎる鎌倉絵巻から、土佐派や狩野派による新展開、漢詩や和歌との融合、絵解きと版本による大衆化、そして河鍋暁斎や現代画家たちの作品までを網羅し、それらがもつ意味を丁寧に読み解いている。
【目次】
序 九相図の一五〇〇年
第一章 九相図とは何か
第二章 九相図の源流──西域・中国から古代日本まで
第三章 中世文学と死体
第四章 「九相図巻」をよむ──中世九相図の傑作(一)
第五章 国宝「六道絵」の「人道不浄相図」をよむ──中世九相図の傑作(二)
第六章 「九相詩絵巻」をよむ──漢詩・和歌と九相図の融合
第七章 江戸の出開帳と九相図
第八章 現代によみがえる九相図
おわりに
補遺 朽ちてゆく死体の図像誌──戦の時代の九相図
文庫版あとがき
図版協力
参考文献一覧
■山本聡美さんプロフィール
やまもと・さとみ/1970年、宮崎県生まれ。早稲田大学文学学術院教授。専門は日本中世絵画史。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(文学)。大分県立芸術文化短期大学専任講師、金城学院大学准教授、共立女子大学准教授・同教授を経て、2019年より現職。『九相図をよむ 朽ちてゆく死体の美術史』(角川選書)で平成27年度芸術選奨文部科学大臣新人賞・第14回角川財団学芸賞を受賞したほか、著書に『闇の日本美術』(ちくま新書)、共編著に『国宝 六道絵』(中央公論美術出版)、『九相図資料集成 死体の美術と文学』 (岩田書院)などがある。
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