年にたった一度だけ、織姫と彦星が会うことを許される七夕の夜。いにしえの人は織姫の切ない気持ちを想像し、こんな歌で表現していた。
恋ひ恋ひて
逢ふ夜はこよひ
天の川
霧立ちわたり
明けずもあらなむ
「詠み人知らず」のこの和歌は、『古今和歌集』に収録されている。これを現代のことばに「超訳」すると――?
やっと彦ぴに会える......♡
でも、今日も
お泊まりは無理かな
雨で電車
止まればいいのに
織姫の、彦星への一途な思いが伝わってくる。
こんなふうに、オリジナルの和歌に大胆な解釈を加え、現代の私たちにも共感できるように訳したのが、2023年7月10日発売の『超訳 古今和歌集 #千年たっても悩んでる』(ハーパーコリンズ・ジャパン)だ。著者は雑学王として知られるnoritamamiさん。子どものころから琴や和歌をたしなんできたという。
『古今和歌集』は平安時代、醍醐天皇の命により、紀友則、紀貫之、凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)、壬生忠岑(みぶのただみね)の4人が編纂した和歌集だ。......と、ここまでは教科書で習った記憶が(うすぼんやりと)あるものの、「どんな歌がある?」と聞かれて答えられる人は少ないのでは。
noritamamiさんは、『古今和歌集』全1111首の中から、「令和の今でも、変わらない思い」を基準に和歌を選び、「超訳」をした。最も多い恋の歌を中心に、四季の歌やお祝いの歌、離別の歌なども盛り込んだ。
小野小町の有名な和歌も、noritamamiさんが訳せばこの通り。
花の色は
移りにけりな
いたづらに
わが身世にふる
ながめせしまに
(古今和歌集113 小野小町)
↓
<超訳>
昔はかわいいかわいい
言われて
結構モテたんだけどな~
一般的な現代語訳では、哀しみや恨みつらみを感じさせるが、小野小町的には、もしかしたらこんな感じで、もうちょっとライトなぼやきだったのかも?
意外に感じたのは、仕事を詠んだ歌が多いことだ。たとえば、大江千里(おおえのちさと)が、自分だけ官位が遅れていることを訴えて詠んだこんな歌。
葦鶴(あしたづ)の
ひとりおくれて
鳴く声は
雲の上まで
聞こえ継がなむ
(古今和歌集998 大江千里)
↓
<超訳>
みんなソッコーで時給UPしてるのに
私は元の時給のまま。なぜ?
店長気づいてます? このこと
ほかにも、職場の人間関係やまさかの異動、中にはクビになっちゃった!なんて歌もあり、平安時代の人もいまと同じようなことで愚痴ったり悩んだりしていたんだな、と『古今和歌集』がぐんと身近に感じられる。SNSで、誰にともなくつぶやくような感覚だったのかもしれない。
さてここで、冒頭の織姫の歌に対して、撰者のひとりでもある紀友則が詠んだ歌を紹介しよう。
天の河
あさせ白浪
たどりつつ
渡りはてねば
あけぞしにける
(古今和歌集177 紀友則)
↓
<超訳>
ごめん織姫
天の川の電波マジ最悪で
道わかんなくなっちゃった
朝になっちゃったし
また来年にしよ
年に一度しか会えないのにスマホ使えないから「また来年」って......。まさかの塩対応に、ロマンチックな気分がどこかへ吹き飛ぶ。
さらに、こちらも撰者の1人、凡河内躬恒が詠んだのがこちら。
我のみぞ
かなしかりける
彦星も
逢はですぐせる
年しなければ
(古今和歌集612 凡河内躬恒)
↓
<超訳>
彦星はまだいいよ、
1年に1回会えるんだし
俺なんてそもそも
そんな子すらいないんだが?
今宵は七夕。地域によっては「霧立ちわたり」天の川が見えなくなるかもしれない。ふたりは逢瀬を楽しめるのか。あなたも自由に想像を巡らせて、31文字でつぶやいてみてはいかが?
■noritamamiさんプロフィール
雑学王として知られ、『つい話したくなる 世界のなぞなぞ』(文藝春秋)、『へんなことわざ』(KADOKAWA)など30冊以上の著作がある。
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