本を知る。本で知る。

ことばより、思いが伝わる。大切なひとに贈りたい本

風の歌を聴け

 大切なひとに本を贈るとしたら、どんな作品を選ぶだろうか。本はメッセージ性の強いアイテムだ。家族や友人、お世話になったひとなど、相手が大切な存在であればあるほど、迷ってしまうかもしれない。今回は、BOOKウォッチ編集部のメンバーが大切なひとを思い浮かべながら選んだ、珠玉の作品を紹介しよう。

0歳の娘へ

『ドリトル先生航海記』

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ヒュー・ロフティング 著、井伏鱒二 訳/岩波少年文庫

 動物と自由に話せる、尊敬する先生。読者の分身となる語り手の少年。個性豊かな動物たち。世界各地、さらには月世界までもまたにかけた冒険。児童文学「ドリトル先生」シリーズは、子どものころの僕にとって、「夢」を詰め込んだような作品だった。設定は奇想天外なのに、どこか現実と地続きになっていそうに思えて、「自分も勉強すれば、いつか動物と話せるかも」「語り手のトミー少年のように、広い世界に飛び出せるかも」――そんな想像力の翼を大きく育ててくれた、忘れられない「恩師」。
 この作品を僕に教えてくれたのは、やはり子供のころ読んだという母だった。まだ娘は小さいけれど、いつか大きくなったら、この本を贈ってあげたいと思っている。 (T)


思春期を迎える息子へ

『置かれた場所で咲きなさい』

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渡辺和子 著/幻冬舎

 2012年刊行。300万部超のベストセラー。思いがけず岡山に派遣され、36歳で大学学長に任命された著者。四苦八苦していた時、1人の宣教師から詩を渡される。そこにあった「置かれたところで咲きなさい」という言葉で、自分が変わったという。

「結婚しても、就職しても、子育てをしても、『こんなはずじゃなかった』と思うことが、次から次に出てきます。そんな時にも、その状況の中で『咲く』努力をしてほしいのです。どうしても咲けない時もあります。(中略)代わりに、根を下へ下へと降ろして、根を張るのです。」

 久々に読んで、濁っていた心が透き通っていくようだった。自分の中にある負の感情に光を当てられて、そういうものもあっていいんだと言われている気がした。
 いつかどこかの場所に置かれて「こんなはずじゃ...」と思った時に、そこで根を腐らせてしまわないように。そんな親心で、息子に贈りたい1冊。(M)


一つ年上の「親分」へ

『僕の姉ちゃん』

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益田ミリ 作/マガジンハウス

 「an・an」で連載されているシリーズで、昨年7月にドラマ化もされた(黒木華さんが可愛かった......)。
 ふたり暮らしをしている社会人1年生の弟と30過ぎの姉。弟が今日のできごとを姉に相談し、姉はそれに答えていく。テンポがよくて読みやすく、何気ない日常だが会話の中身が深くて共感できる。何より、弟が絶対に姉に逆らえない感じが、妙に自分に重なる。
 小学校低学年くらいまでは姉の後ろにくっついて歩き、弟というより「子分」だった。お互い社会人になってからは、年に1回会うか会わないか、年に4、5回LINEするかしないか、という少ない頻度だけれど、会った時にはいろんなアドバイスをくれる。他人に言われると嫌なことも、姉に言われると不思議と納得してしまうようなこともあり、やっぱり頼りになる存在。姉の前では絶対に言わないが「この人が自分の姉で良かった」と思っている。(O)


この春、社会人になった友へ

『風の歌を聴け』

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村上春樹 著/講談社

『限りなく透明に近いブルー』

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村上龍 著/講談社(画像は新装版)

 当時、美大生だった1つ年下の友人に、誕生日プレゼントで実際に贈った本。視覚的なものに触れる機会は多いだろうから、文章からも刺激を受けてみてほしくて、ダブル村上の若い感性がほとばしるデビュー作の読み比べセットにした。そんな彼女もこの4月から社会人。夢に向かって頑張って!(H)


物語を作ってくれた父へ

『だれも知らない小さな国―コロボックル物語1』

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佐藤さとる 著/講談社(画像は新イラスト版)

 子どものころ、寝る前に即興でお話を作って聞かせてくれた父に。なかでも好きだったのは、佐藤さとるさんの「コロボックル」シリーズにヒントを得た不思議なこびとの物語で、何度もせがんだのを覚えている。父が遅く帰る晩にも聞けるようにと録音したカセットテープには、兄と私がゲラゲラ笑う声も入っていて、母は今も大切に持っている。
 最近、父がいろいろなことを少しずつ忘れていってしまうことが寂しい。オバサンになった娘の顔をいつか忘れてしまったとしても、この本から当時の幸せな記憶を思い起こしてもらえたら、という願いを込めて。(N)


 ことばに表すのが難しい感謝の気持ちやエールは、本を介することで、案外すんなり伝わるかもしれない。大切な人を思い浮かべながら本を選ぶ豊かな時間を、あなたにもぜひ体験してほしい。



  • 書名 風の歌を聴け
  • 監修・編集・著者名村上春樹 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2004年9月14日
  • 定価594円(税込)
  • 判型・ページ数A6判・168ページ
  • ISBN9784062748704

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