(施設名)BOOK HOTEL神保町
東京の「本の街」といえば、千代田区神田の神保町。ここには、"読書するために泊まるホテル"があるという。
本好きがゆっくり過ごせるスポットを紹介する「しあわせの読書空間」第4回は、「BOOK HOTEL神保町」を訪れた。都営地下鉄・東京メトロの「神保町」駅のA1出口から出て右へ歩き、たったの30秒で到着する。
ガラス扉を開けると、バーカウンターのようなフロントが。実はここ、夜にはBOOK BAR「ing.(イング)」に変身する(20~24時の営業、日・月曜定休)。アットホームな雰囲気のカウンターで、チェックインを済ませる。
ロビーの壁には、本がずらり。全ての本が表紙を見せて置かれている。一冊ずつ紹介文も添えられていて、気軽に手に取りやすい。
2021年12月にプレオープン、翌年10月にグランドオープンしたBOOK HOTEL神保町。コンセプトは、「『わたしの本』を見つけるホテル」だ。どんな思いが込められているのだろうか? 支配人のmoonさんにお話を伺った。
「コロナ禍のオープンということもあって、『大切な"今"を"失われた時間"にして欲しくない』という思いがありました。本で何かできることはないかと考えて、『本がお悩みを解決する』というのはどうだろうと。プレオープンの期間にお客さまにアンケートを取ったところ、健康、恋愛、キャリア、人間関係といったお悩みが寄せられました。ジャンルは幅広く揃えつつ、お悩みに応えられるような本を中心にセレクトしています。お客さまと一緒につくっていくホテルです」
1階ロビーに加えて、2~11階までの各フロアに本棚があり、客室にも本が置かれている。現在約900冊ある蔵書は、全てスタッフが読んでいる。その多くに渾身のポップが添えてあるのも、このホテルならではだ。
「1階のものは打ち込みですが、2階から上に置いてある本のポップは全て手書きです。デジタル化の時代にあえてアナログで、人間のあたたかみが感じられるように......と、1冊1冊読んで書いています。『スタッフさん、こんなふうに思ってるんだ』という楽しみ方もしていただけるのではないかなと、こだわっている部分の一つです」
つくろうとしているのは、「本が接客するホテル」だ。本を充実させるとともに、人間の業務はできる限り簡略化してある。朝食やモーニングコールなどのサービスはなく、フロントへの連絡も電話ではなくLINEでする。フロント業務は8~22時までで、それ以外の時間は緊急の場合を除いて対応を控えているという。
「業務を簡略化してお客さまからいただいた時間で、本を読み進めています。普通のホテル並みの機能を求められる方には、申し訳ございませんがお応えできません。そのかわり、ここでしかできない体験をご提供しています」
本と出合う手助けをしてくれるのが、「ブックマッチングサービス」。宿泊者全員に無料でつくサービスで、チェックインの2日前の22時までにアンケートに答えると、スタッフがおすすめの本を数冊選んで渡してくれる。
アンケートには、好きな本のジャンル、興味のあること、お悩み・解決したいことなどの項目が。記者は他人との接し方について悩んでいると書いてみた。チェックインの際に、マッチングしてもらった本を受け取る。「本人が選ばなさそうな本」を紹介しているそうだが、果たして......?
選んでもらったのは、花田菜々子さんの『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)と、珠川こおりさんの『檸檬先生』(講談社)。選書テーマは"話題になった本"だそうだ。特に『出会い系サイトで~』は、記者の悩みの解決につながるかもしれないとのこと。どちらも、確かに自分では手に取らないタイプの本だった。客室に入ってから相性を確かめてみたい。
加えて、moonさんがホテルをオープンする際に助けられたという、阿部広太郎さんの『それ、勝手な決めつけかもよ?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)も一緒に貸してもらった。フロアの本も気になるし、チェックアウトまでに読み切れなさそう......。ホテルの本は販売していないので、読み切れなかった本を神保町の本屋で買って帰るお客さんもいるのだとか。街とのいいサイクルが生まれているようだ。
もっと悩みを聞いてもらいたい、ぴったりの本を探してほしいという人のために、「ブックカウンセリング」というサービスもある。BAR「ing.」が休みの日曜日・月曜日に1階カウンターでおこなっており、1回3000円で1ドリンク付き。完全予約制だ。
Amazon Kindleで作家活動もしているmoonさん。これまでのカウンセリングをもとにしたお悩み解決ストーリーを、『神保町本物語 迷えるあなたのための読書案内』で紹介している。「自分なんてダメな人間だ」と思ってしまう、周りが次々と結婚して焦るようになった......といったお客さんのお悩みに、本を紹介して応えていく様子が描かれている。
moonさんは大学時代、カウンセラーを目指して心理学を専攻していたそう。膨大な本の知識と、人に寄り添うカウンセリングをかけ合わせる。まさにmoonさんならではだ。
「おすすめする本は、経験にもとづく直感で選んでいます。すでに1000人ほどのデータが集まっていて、アンケートを見ると「こんな人かな」とイメージが湧くようになってきました。本好きの方は書くのも好きな方が多くて、けっこう詳しく書いてくださるんですよ。
お客さまにはいろいろな出合いをご提供したいので、選書やカウンセリングは私以外のスタッフも担当しています。人によって得意なジャンルも違いますし、選書のし方もそれぞれです」
さらに、「お悩みを本で解決する」という趣旨のもとで、結婚相談所「BOOK婚(ぶくこん)」も運営している。本の趣味が合う相手を探すと同時に、やはりカウンセリングを通して、スタッフから本を紹介する。利用者は本を読み、自分がどんな結婚をしたいのか、今どうすべきかを考えていく。つまり、「結婚したい」という悩みを本で解決するサービスだ。
「本には先人たちのヒントが詰まっています。しかも、誰かから押しつけられるのではなく、自分で読んで答えを見つけることができる。私たちはそのきっかけ作りをしているのみです。
私は、『悩んでいるなら本を読んでほしい』と思っています。偶然出合った1行が、もしかしたら人生を変えてくれるかもしれません。本好きの方に限らず、悩みがある方ならどなたでも、ぜひBOOK HOTEL神保町に来ていただきたいです」
偶然の出合いをもたらしてくれるサービスもある。誕生日を伝えると366冊の中からその日の本を渡してもらえる「366BOOKS...」と、コーヒー・チョコレート・シークレットの本のセットがもらえる「ブックペアリング」(500円。持ち帰り可)だ。どんな本が手元に来るかわからないドキドキが味わえる。
宿泊しなくても利用できるサービスとして、500円で本を3冊選んでもらえる「ワンコイン選書」も実施中だ。さらに、不定期開催の読書会や、原田ひ香さんの『古本食堂』(角川春樹事務所)に登場するお店を巡る街歩きツアー(1日1組限定)などの参加型企画も用意されている。新企画もすでに始動中だそう。moonさんいわく、2023年の目標はなんと「本のディズニーランド」! これからの進化に期待が高まる。
さて、いよいよ宿泊する部屋へ向かおう。2階から11階までの本棚はそれぞれテーマでまとめられており、宿泊者は自由にフロアを行き来できる。
最上階の12階は、「MANGA ART ROOM, JIMBOCHO」と題したマンガ専門フロアだ。「白の洞窟」「黒の洞窟」の2部屋があり、それぞれに個室サウナがついている。こだわり抜かれた空間で、フィクションの世界に没頭するひと晩。マンガ好きにはたまらないはずだ。
それでは、いざ読書漬けの1泊へ! アメニティグッズを取って、エレベーターで7階へ上がる。いったいどんな本たちが記者を待っているのだろうか。気になる宿泊レポートは、後編へつづく。
・BOOK HOTEL神保町
https://bookhoteljimbocho.com
東京都千代田区神田神保町2-5-13
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