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人生でいちばん泣いた本といえば?

きりこについて

 本を読んで泣いた後は、気持ちがふっと軽くなる気がする。映画やドラマと異なり、登場人物の姿かたちや声、風景も時代背景も、文字による情報がすべてだ。読者の想像に委ねられる部分が多いからこそ、自身の感情や経験を重ねやすいのかもしれない。

 では、あなたが「人生でいちばん泣いた本」を選ぶとしたら――? 今回は、BOOKウォッチ編集部のメンバーが厳選した号泣作品を紹介しよう。

「自分を大切にする」とは?

 一番手は「泣いた本」発案者のH。「本を読んで泣いた経験のある人は多いだろうけれど、泣く理由は人それぞれ。何を経験してきたかによって琴線に触れるものが違ってくるので、泣いたエピソードからその人がどんな人なのかが見えそうだと思い」このテーマを選んだという。そんな彼女自身の琴線に触れた本がこちら。

『きりこについて』

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西加奈子 著/KADOKAWA

 「きりこは、ぶすである。」というパンチのある一文で始まる小説。きりこは両親に愛され、自分は可愛いと思いながら育ったが、ある日好きな男の子に「ぶす」と言われてショックを受ける。悩んでひきこもるきりこに寄り添うのは、人の言葉がわかる黒猫「ラムセス2世」。やがてきりこは、近所のちせちゃんとの出会いを通して、「自分を大切にする」ということに目覚めていく。
 猫の視点で語られることで、人間の凝り固まった価値観がひっくり返され、「縛られなくていいんだ」と救われた気持ちになる。きりこがちせちゃんのために大人に立ち向かっていく姿に涙が止まらない。


もしも愛する人を忘れてしまったら

 続いては、愛妻家(?)の営業担当O。「今回の選書にあたって改めて読み返したら、もう涙と鼻水でグジュグジュでした(笑)」と語ったのがこの一冊だ。

『明日の記憶』

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荻原 浩 著/光文社

 「自分が愛する人を忘れてしまう」「愛する人が自分のことを忘れてしまう」。想像するだけで、とても悲しく、寂しく、怖いことだと思う。仮に自分が今その現実を突きつけられても、受け入れることは難しい気がする。だからこそ、この物語に出てくる若年性アルツハイマーの夫とその妻の強い覚悟、そして深い愛情に、心の底から感動し、尊敬の念を覚える。
 小説でも号泣したが、渡辺謙さん、樋口可南子さんが出演した映画でも、鑑賞後しばらくは映画館内で涙が止まらなかった。特にラストシーンの、妻を忘れてしまった夫と妻の会話の場面は、思い出すだけでも目頭が熱くなってくる。


喉の奥がグワッと痛くなる

 本を読んでも「あまり泣かないほう」と言うMは、2020年に本屋大賞第2位となった小川糸さんの作品を選んだ。2019年刊行、2022年に文庫化された本作。BOOKウォッチでも書評で取り上げている

『ライオンのおやつ』

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小川 糸 著/ポプラ社

 33歳で余命を告げられた雫(しずく)は、最後の日々を瀬戸内の島のホスピスで過ごすことを選ぶ。そこでは、もう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があった。「人生の最後に食べたい"おやつ"は、なんですか」――。
 小川さんの母親に癌が見つかり、母親は「死ぬのが怖い」と怯えていた。「読んだ人が、少しでも死ぬのが怖くなくなるような物語を書きたい」との思いで、小川さんは本作を執筆したという。
 感動作や傑作という表現が、誇張でもなんでもなく本作にはあてはまる。小説を読んでそんなに泣く方ではなくても、喉の奥がグワッと痛くなるほど泣いた。生きる、死ぬ、ってこういうことなのかもしれない、こうだったらいいな、と思った。大切な人を見送る側に、いつか見送られる側になるとき、読み返すことになりそうな1冊。


歴史に埋もれた人の生き方にこそ感じる重み

 東北出身のSが選んだのは、浅田次郎さんの時代小説だ。歴史に名を残した人がクローアップされがちだが、あまり知られていない人物を主人公にした本作に泣いた理由とは?

『壬生(みぶ)義士伝』

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浅田次郎 著/文藝春秋

 浅田さんの本はどれも泣かせる話が多いが、この本は、新選組を扱いながらも、東北の南部藩を脱藩した吉村貫一郎の生き方を通して、過酷な運命と戦うこと、貧困と騒乱のなかでも貫かれる美学に意味はあるのか、ということを問うてくる。
 歴史に埋もれた人の生き方にこそ重みがあることを、南部なまりの語り口で伝えてくれ、東北出身者にはグッとくるリアリティがある。中井貴一主演で映画化され、これにも涙したが、南部弁がいまいちだったことが惜しかった。今回、あらためて調べたら講談社からコミック化されている。柴田錬三郎賞受賞作。


泣けるノンフィクションは数あれど...

 最後に、ドラマを観ては泣き、映画のラストシーンに号泣し、子どもの運動会では「はじめのことば」でうるっときてしまう(しかも我が子ではない)記者が、最近いちばん泣いた本を紹介しよう。

『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』

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山本文緒 著/新潮社

 2021年、58歳の若さで膵臓がんのため亡くなった作家・山本文緒さんが書き残した日記。58年という人生を「長くもないが短くもない」と評し、「充実したいい人生だった」「ものすごくよくやった方だと思う」と振り返る。淡々と綴られた文章から、書くことへのひたむきな姿勢や、夫や周囲の人々へのあふれる思いが伝わってきて、静かに胸を打つ。

 BOOKウォッチの書評はこちら→58歳で急逝した作家・山本文緒さんが、亡くなる9日前の日記に書き残した言葉



 さて、あなたの琴線に触れる本は見つかっただろうか。編集部のメンバーの人物像も少しずつ明らかに。次回の選書もお楽しみに!





 


  • 書名 きりこについて
  • 監修・編集・著者名西 加奈子 著
  • 出版社名KADOKAWA
  • 出版年月日2011年10月25日
  • 定価572 円 (税込)
  • 判型・ページ数文庫判・224ページ
  • ISBN9784043944811

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