昨年、一大ブームを巻き起こしたドラマ「silent(サイレント)」。生方美久さんが脚本を手掛けた本作で、とくに注目を集めたのが「言葉」だ。登場人物の生き生きとした、自然体のせりふが静かな感動を呼び、多くの人々の胸を熱くした。
人の心を動かす言葉とは、どういうものなのか。今回は、BOOKウォッチ編集部の面々が、「言葉を磨く本」をテーマに選書した。
トップバッターは「silent」沼にハマった記者M。「書く」と「話す」、2つの視点から選んだのがこちらの2冊だ。
『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』
めちゃくちゃ面白かった1冊。「倍速視聴・10秒飛ばし」という習慣が、なぜ現代社会に出現したのか。タイトルにある映画をはじめ、ドラマ、アニメ、書籍を含むコンテンツの「消費」のされ方について、実態をあぶり出し、そうなった理由を考察している。
パソコンに向かってぽつぽつ文字を打っているだけでは気づけなかった、いま多くの人が欲しているコンテンツのスタイル、時代の気分みたいなものを教えてくれる。
著者の文章がなんとも小気味よく、笑ったり唸ったりしながら読んだ。直接的には文章や言葉にかんする本ではないけれども、文章のお手本のようだなと思った。
『言葉の温度』
韓国で150万部を突破し、社会現象にもなったエッセイ。街角のふとした会話、心打たれた本や映画の一節......。「言葉の砂浜」から「キラリと輝く宝石のような文や単語」を丁寧にすくい上げ、それらがもつ優しさ、切実さについて綴っている。
「あなたが日々何気なく発する一言の、『言葉の温度』は何度ですか?」という問いかけにハッとした。文章を書いたり会話をしたりするとき、どう書くか、どう言うか、という表面ばかりに意識が向きがちだった。パッケージはわるくないのに中身はスカスカ......なんてことにならないようにしたい。
どんな言葉を発する? もう1歩踏み込んで、その言葉の温度は? まで考えると、言葉とそれを向ける相手のことを、もっと大切にしようと思えてくる。
一方、話し言葉より書き言葉のほうが饒舌になる若手記者Hは、哲学と文学から「言葉」を見つめる。
『言葉の展望台』
BOOKウォッチで紹介した本。著者の三木那由他さんは哲学者。「エッセイと評論のあいだ」という体をとっていて、日常のちょっとした言葉に関する疑問から哲学的な考察を展開している。かと思ったら、「論理的にはそうなんだけど、実感としては違う気がする......」と、「哲学者」と「私」の間で揺れ動き、「言葉」を考える難しさに真っ向から向き合った一冊。
『地球にちりばめられて』
ドイツ在住の作家・多和田葉子さんの代表作の一つ。主人公は、故郷の島国が消滅してしまい、異郷で生き抜くためにヨーロッパ各国の言語を合成してどの国でもだいたい通じる〈パンスカ〉という言語を作り出した女性で、自分と同じ母語を話す人を探す旅に出る。すべて日本語で書かれていながら、言語を横断する面白さが鮮やかに体感できる作品。
営業担当のOは、小説、ビジネス書、マンガと幅広いジャンルから「光る言葉」を探した。
『蝉しぐれ』
登場人物の一つひとつの言葉が非常に奥深く、場面の情景・雰囲気を表現する言葉も美しい。言葉選びが特徴的な作品。
「人間は後悔するように出来ておる」という言葉が印象的で、物語の中で出てくるさまざまな選択・葛藤を、すべて受け止めて(慰めて)くれているような気がする。
市川染五郎(現:松本幸四郎)さん主演の映画を見た後に原作を読み、そこから藤沢周平作品にどっぷりハマった。どの作品も綺麗な言葉が使われている印象がある。
『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』
プレゼンテーションの技術を主眼に書かれているが、日常的にも使える要素がたくさんある。家族や友人と話すと、ダラダラ長い話をしがちですが、やはり頭に入ってこないですよね(笑)。適切な言葉選び・言葉づかいは、年齢性別を問わず、多くの人に伝わるものだと教えてくれた1冊。
羽海野チカさんの作品はとにかく言葉が綺麗で秀逸。「3月のライオン」も「はちみつとクローバー」も、登場人物が苦悩するシーンが多いが、心に刺さる言葉選びと不思議な共感を覚える比喩表現が、読んでいてどっぷりハマってしまう魅力のひとつ。映画化もされたが、主人公役の神木隆之介さんがはまり役過ぎて大興奮したのは私だけではないはず。
言語学に関心が高く、常にアンテナを高く張っている記者Sが選んだのは次の2冊だ。
『新解さんの謎』
三省堂『新明解国語辞典』の独特の語釈に潜む謎を赤瀬川さんが想像たくましく推理していく本。
国語辞典というお堅い世界にもかかわらず、その文体に、統一された人物像=ある男、が浮かび上がる、という前提が笑わせるとともに、何か人生の哀歓のようなものも感じさせる。
辞典を作る人たちにも人生はあるんだという当たり前のことや、辞典辞書の持つ味わいを存分に味わった。20世紀末の本だが、読んでから暇なときにいろんな辞書をパラパラ眺めることを至福の時と思うこともあるようになり、新明解とは別の辞書も、めくっては想像をたくましくしている。
『日本語とにらめっこ 見えないぼくの学習奮闘記』
スーダン出身でアラビア語を母語とするアブディンは弱視から全盲になるが、来日してから日本語の点字や朗読テープを通じて本を読むことに夢中になり、福井の盲学校で鍼灸を学ぶ。手探りで日本語を習得し、大学にも進学し、今では全盲のエッセイストとなった彼の聞き書き。言語を学ぶとはどういうことか、人間が学ぶとはどういうことかを考えさせられた。
「言葉選びが上手い人」選手権があれば優勝はカタいT(この人の"失言"を聞いたことがない)が、謎かけのように選んだのはこちら。
『ポケットに名言を』
「言葉を友人に持ちたいと思うことがある。それは、旅路の途中でじぶんがたった一人だと言うことに気がついたときにである。」
本を開いた瞬間、いきなりハートをつかんでくる。さすが「言葉の魔術師」と呼ばれた選者・寺山修司。中身は一見スタンダードな名言集だが、「本当はいま必要なのは、名言なのではない」と寺山は言い切る。いったいなぜ? 読むことで、あなたも「新しい言葉」を生み出したくなってくるような、そんなエネルギーを持つ一冊。
最後に、言葉にかんする仕事に向き合ってきた2人の作品を紹介したい。対極にある仕事に思われるが、記者は心が温まる、共通の「何か」を感じた。
『文にあたる』
校閲者の牟田都子さんが、本への思いや言葉との向き合い方、仕事に取り組む意識を綴ったエッセイ。校正の仕事とは、「思い込みや先入観をいかに排するかというところに収斂する」という。人の誤りを指摘するのはとても勇気のいることだと思う。地味な仕事と思われがちだが、言葉と、それを書いた人に、真摯に向き合う牟田さんの姿勢に情熱を感じる。読んでいて、背筋を正したくなる一冊。
『幸福を見つめるコピー 完全版』
2014年に他界したコピーライター・岩崎俊一さんのコピー&エッセイ集。「コピーはつくるものではなく、見つけるもの」と言う岩崎さん。何人もの人が「うなづける(原文ママ)」「ほんとうのこと」を探して、誰の心にも入りやすいカタチにするのがコピーライターの仕事だという。多くの人々の共感を呼ぶ言葉を生み出すのは、人の弱さや複雑な心情を深く突き詰めてきたからこそ。彼のコピーが、いつの時代にあっても「ああ、こういうことだよね」と膝を打つ理由がわかる。
どんなに多くの言葉を並べても響かないこともあれば、たったひと言が誰かの心を動かすことも。様々な本から言葉を吸収し、発する言葉の一つひとつを磨いていきたい。
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