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「大丈夫。私たち、ちゃんとやっていける!」枝元なほみさんから50代の女たちへ

捨てない未来

 人生後半を迎えて生き方に悩むアラフィフ女性に、先輩たちからアドバイスをもらう「50歳の迷える女たちへ」シリーズ。伊藤比呂美さん、坂東眞理子さんに続く今回は、料理研究家として活躍する傍ら、フードロスや農業、貧困などの社会問題にも取り組む枝元なほみさんだ。
 コロナ禍では、生活に困窮した人たちが売れ残ったパンを販売する「夜のパン屋さん」をスタートして話題に。昨年10月には『捨てない未来』(朝日新聞出版)を上梓した。料理人「エダモン」として親しまれてきた枝元さんが、50代を目前にライフワークを見つけたきっかけとは。そして、私たちがこの先の未来を「捨てない」ためにできることとは。お手製のパンプディングをいただきながら、じっくりとお話を伺った。

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枝元なほみさん

49歳にして初めての営業。自分にできることを探した

――枝元さんはいつも元気でパワフルに活躍されていますね。女性にとって50代前後は心身の変化を感じ、その後の生き方に惑う時期でもありますが、ご自身はいかがでしたか?

枝元:全然、もう忘れちゃったかな(笑)。悩みといえばその時々に、男関係や家族のことなどいろいろあったと思うけれど、バタバタと忙しくやり過ごしていたのかもしれない。ただ仕事に関しては、自分の中で何か変わっていく時期だったような気がします。
 それまでは社会の中で求められることに応え続けてきたけれど、求める側の行き詰まりを感じたというか。経済的な利益を追求するあまり、ハードだけにお金が費やされ、人へのお金を削られる現実があり、「それっておかしいでしょ?」と思う。そんな日本型の社会システムにものすごく腹を立てていた頃、『ビッグイシュー』との出会いがあったんです。

――『ビッグイシュー』とは、ホームレスの人の自立支援を目的にした雑誌で、路上で販売することで仕事を提供していますね。出会いのきっかけは何だったのですか。

枝元:スローフード特集でインタビューを受けた際、「何か手伝わせてほしい」と話し、料理の連載ページを担当することに。49歳にして、初めての営業でした(笑)。私がビッグイシューに共感したのは、すごく明快なシステムだと思ったから。困っている人にお金を渡すのではなく、仕事を作る。販売者さんたちは雇われるのではなく、自分の好きなように仕入れて売る「個人商店」だから、会社と販売者さんがフラットな関係というのも良いなと思いました。
 私もそれまでずっと一生懸命がんばってきたけれど、もうちょっと違う形を探していたのかもしれない。ビッグイシューと関わるようになって、自分の立ち位置を考えました。誰かを犠牲にする経済はおかしいと思いながら、私の生活も困窮する人たちの犠牲の上に成り立っているんじゃないかと。ならば自分にできることは何だろうと思ったのです。
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夜のパン屋さんで売れ残ったパンと残り野菜で作ったパンプディング。塩気がおいしい

――50代からフードロスの問題にも取り組まれ、2011年には「チームむかご」を結成。流通にのらずに捨てられてしまう食材を広める活動をスタートされたのですね。

枝元:料理の仕事で食材の産地に招かれる機会が増えていき、いろいろな畑を訪れました。そこで生産者の声を聞くと、「きれいな野菜じゃないと買ってもらえないから」と言います。でも、自分の周りの消費者は「見かけは悪くても、美味しくて安全なものを買いたい」と言う。生産者と消費者の関係がすごくねじれていると気づきました。私はその真ん中にいるので、どちらの気持ちもわかる。だから、ねじれているものを直していくのが自分の仕事なんじゃないかなと。生産の現場では農業収入が安定しないから、若い人たちがとても継げない、食べていけないという厳しい現実もある。このままでは日本の農業が本当にダメになってしまうと思いました。
 私にできることはないかと考えたとき、畑で捨てられているむかごを思いつきました。むかご(山芋の葉の付け根につく球芽)は栄養があり、塩ゆですると皮ごとぱくぱく食べられる。でも、売れないからと廃棄されているのはもったいないじゃんと。捨ててきたものを販売できれば、"希望の種"になるかもしれないと考えたのです。
 とはいえ農家さんに声をかけても、「俺らは面倒だからやらん」と。やっと懇意になれた農家さんの畑へ新幹線で出かけ、自分たちでむかごを取り、洗って干して袋詰めし、マルシェで売っても一袋200円。どれだけ老後資金を注ぎ込んだことか(笑)。それでも私たち消費者が買って支えていかなければと思う。生産の現場と流通システム、さらに私たちもつながることで循環する輪の中にいるという意識を持つことが必要だと思うのね。

おばちゃんになったから、できることもいっぱいある

――ご著書の『捨てない未来』ではフードロスをテーマにするなかで、どのような思いを込められたのでしょう。

枝元:キッチンにいる私たちができることからやっていこう、というような視点はもうやめたかったんです。だって私たちは息苦しいほど相当にがんばっているでしょう。
 フードロスの問題はキッチンにいる女たちに押し付けられがちだけど、社会システムの歪みが深く関わっていると感じます。大量生産、大量消費、大量廃棄という、地球規模の経済的悪循環のシステムです。その大きな構造を変えていくことなしに、私たちが今できることからという視点になってしまったら絶対ダメだと思うのね。そして同時に「なめんなよ!」とも思う。キッチンで料理をして、食べて生きていくという営みを支えている私たちが主役であり、日本の社会システムに対してきちんと問うことで、今の状況を変えていくことができるということもすごく伝えたかったのです。
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「拠って立つ位置を知りたくて」歴史学者・藤原辰史さんと対談した

――この本を書くことで、枝元さんの中で何か気づきや心境の変化などはありましたか?

枝元:私は何か目標を持ってそこへ意識的に進むというタイプじゃないし、あまり年齢のことも考えないで生きてきちゃった。でも、『捨てない未来』で考えていたのは、もう自分も残りの時間をカウントダウンし始める時期になったということ。60代半ばを過ぎ、ちょっと病気をしたこともあるけれど、あと何年生きるのかなと。そういう時期になって初めて未来のことを心配するようになった。そして、子どもたちにちゃんとした自然環境を残していかなくちゃとすごく思うんだよね。
 同じような生きづらさをそのまま受け渡したくないし、今の社会システムを作ってしまったのは私たち大人世代でしょう。だから、私たちが絶望しちゃいけないし、子どもたちに申し訳が立たないと思う。では自分が何をしたらいいんだろうと考えると、やっぱり「愛」でしょう。他人の幸せを願う利他の気持ちでいこうと。その時に私もおばちゃんになったから、できることもいっぱいあるなと思うんだよね。昔は何かおかしいと感じても遠慮して言えなかったり、こうあらねばならないと枠に縛られてしまうところもあったり。でも、今はおばちゃんだからビビらずに何でも言えるようになったし、笑いながらたくましくやっていかなくちゃと思うのね。

いっそ断捨離しちゃえばいいじゃん

――枝元さんも50代から60代にかけて自分の変化を感じてこられたのですね。これまでがむしゃらに生きてきて、働き方や生き方を見つめ直している――けれど、変化することも怖いアラフィフの読者に、次のステップへ進むためのアドバイスをいただけますか。

枝元:どうしても今まで教わってきた価値観に縛られ、きつい拘束服を着ながら生きているようなところがあるから、いっそ断捨離しちゃえばいいじゃんと思う。こうであらねばならないとか、こうしなければ何か言われるんじゃないかとか、日本の女たちは思いがちだけど、人と比べなくてもいいんです。
 私はずっとビッグイシューの販売者さんが回答する「ホームレス人生相談」というページで「悩みに効く料理」を紹介しているのね。その回答が温かくて、心に染み入ってくる感じ。そして悩んだり、落ち込んだりしても、温かいお茶を飲んでひと息ついたり、「これ、おいしいね」と好きなものを食べたり、そういう時間を持つとホッとして、自分を肯定できることもあるでしょう。
 これまでずっとがんばってきたんだから、人がどう思おうが、周りの価値観などもう気にしない。それより先に、好きなものを温かいうちに食べちゃうというのが大事(笑)。「このお茶、美味しい」「炊き立ての白飯はうまい!」とか、自分が幸せだと思える時間を宝物のように持っているのはすごく大切なこと。そうすればどんなときも、「大丈夫。私たち、ちゃんとやっていける!」と思えるから。
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出来立てを「温かいうちに食べて」とにっこり

■枝元なほみさんプロフィール
えだもと・なほみ/横浜市生まれ。劇団の役者兼料理主任、無国籍レストランのシェフなどを経て、料理研究家としてテレビや雑誌などで活躍をつづける。一方で、農業支援活動団体である社団法人「チームむかご」を立ち上げ、NPO法人「ビッグイシュー基金」の理事も務める。著書に『枝元なほみのリアル朝ごはん――毎朝、こんなの食べてます。』(海竜社)など多数。


取材・文:歌代幸子/ノンフィクションライター


※取材協力:朝日新聞出版


  • 書名 捨てない未来
  • サブタイトルキッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す
  • 監修・編集・著者名枝元なほみ 著
  • 出版社名朝日新聞出版
  • 出版年月日2022年10月 7日
  • 定価1980円(税込)
  • 判型・ページ数四六判並製・176ページ
  • ISBN9784023319660

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